190 アスファルト舗装試験
誤字報告、ありがとうございます。
本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。
チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。
主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。
アスファルト舗装の研究と試作のための予算は、産業省と近衛五軍の予備費から出ている。
そのため産業大臣のガロベット卿と元帥府から軍務尚書のフィグレー卿が出席していた。
「本日は、新舗装資材を用いた新しい規格道路の試験にお立会いいただき、身の引き締まる思いでございます。」
「試験結果が期待される結果となることを望みます。」
「さて、楽しみにしておりますぞ。」
試験場となる場所は、宮殿の中にある小さな広場というか、中庭というか、城壁と建物などに挟まれたテニスコート2枚分くらいの空き地が選ばれた。
そこを望む2階の廊下に席が設けられている。そこは柱が上を支える、手すりがあるだけの開放的な廊下で、風がそのまま吹き渡る作りだ。
2階なので、階下の中庭状の空き地がよく見渡せる。
そこはすでに掘り下げられ、基礎工事が済まされていた。今、見えているのは砕石を突き固めた路盤材だ。その下には砂の層がある。ここまでは、これまでの道路建設と同じだ。
階下には近衛五軍に所属する工兵たちが控えていた。
彼らにこの1ヶ月ほどアスファルト舗装の技術を習得するための技術講習会を受けてもらっていたのだ。
工兵たちが整列する傍らには、音を立てながらゆっくりと回転する金属製の樽があった。それは大砲を運ぶ架台に乗せられている。それが3台。
アスファルト舗装材を混ぜ合わせるためのミキサー車だ。
アスファルト自体はヴィナロス王国の国内に産地があったので、これは難なく必要量が確保できる見通しが立った。
アスファルトの精製も魔術を駆使して、なんとかなった。
砕石を作り、砂利と石灰岩の粉末とアスファルトを混ぜる機械の開発もなんとかなった。コンクリートミキサー車のようなものを作って運べれば効率が良いが、現時点で難しいと言う判断に至った。
そこで素材だけ運び、現地で混ぜ合わせて舗装するという方式になった。
そのため加熱しながら材料を混ぜる長さ2m・直径1mほどの樽型をした小型のミキサーを開発し、それを大砲を載せる架台で運ぶことにした。
実はこのミキサー自体、軸受が使われているので、新技術の塊のようなものだ。
「あの金属製の樽で舗装材が混ぜ合わされています。あれは内部が魔術で高温になるようになった魔法道具で、アスファルトを溶かして他の素材と混ぜ合わせるのです。」
ミキサー自体は『樽』と表現しているものの、すべて鉄製だ。内部は約160℃に達するし、砂利を混ぜるので木では耐久性の面でお話にならない。
工兵たちは3台のミキサーであらかじめ舗装材を作っておき、すぐに作業が開始できるように準備していた。最初は舗装の下層部を、その後に表面の仕上げ材を作る。
下層を粗い砂利を使った頑丈な層にすることで耐久性を確保し、表面に細かな砂利を使った層にすることで振動などを抑える。
下層と表面で舗装の厚みと砂利の粒の大きさを変えることで、舗装の耐久性と上を通る人や荷車の快適性を確保するのだ。現実地球で実際に使われている方法である。
「作業、開始!」
工兵の隊長が号令を下した。
ミキサーが止められ、上蓋が開けられると蒸気が上がり、黒い舗装材の姿があらわになった。
それを、工兵たちがシャベルですくい上げ、バケツに入れ、それをバケツリレーの要領で運んでゆく。
そして路盤材の上に広げると、それをトンボを持った工兵が均してゆき、二人ひと組になった突き固める取っ手を付けた丸太を使って押しかためてゆく。
さすがにみっちり訓練しただけあって、手際良く工事が進んでゆく。
「この面積をどれほどで済ますのですかな?」
「たぶん、お昼前までには。」
「それは速い。」
私がガロベット卿の質問に答えると、フィグレー卿は感心したように応えた。
石畳は頑丈で見栄えも良いのだが、石工たちが最終調整をその場でおこなうから、施工速度はどうしても遅くなる。
アスファルト舗装は敷いて、均して、突き固めて、そして冷えて固まるのを待つだけだから、比べ物にならないほど早い。デコボコも少ないから、ガタガタと揺れない。
私たちは上から舗装の様子を眺めて、この舗装技術で王国の流通がどう変わるかを話していた。
「とは言え、今の馬車の車輪などで走り回られると早晩、轍だらけになってしまうでしょう。なんとか早く改良車輪に切り替えさせたいのですが。」
「そうですなぁ。改良車輪を使った馬車の税を安くし、旧来のものの税金を上げると普及は早いでしょうが、これはヴェッドン卿の裁可することですからな。」
「せっかく造った道がすぐにボロボロになっては困る。御前会議で検討してもらうように、事前協議を始めなければ。」
「では、そちらはお任せします。」
アスファルト舗装は私たちが話しているうちに着々と進み、表面の仕上げにかかった。
「アーディアス卿、その改良車輪の開発はどの程度できているので?」
「軸受はできてきました。あとはタイヤ部分です。ゴムの品質安定が課題です。」
軸受は小さいものはまだだが、馬車の車輪に使うぐらいの大きいものなら必要な精度が十分確保できるようになってきた。
ゴムも、ケイトが来てくれたおかげで加工の研究は飛躍的に進んでいる。
だが、品質を安定させて供給するのにまだ不安がある。原因のひとつが素材にしている天然ゴムの品質なのだが、これはすぐに解決が難しい。
職人技的な加工の加減が必要なのだが、始まったばかりなので、そんな熟練工は世界のどこにもいないのだ。
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