189 文献調査
更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。
チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。
主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。
禁書庫の本棚は一見して、本棚に見えない。棚には多数の厚紙製の函が並んでいて、まるで倉庫のように見える。
本は厚紙でできた函に収められていて、背表紙にあたる部分にタイトルが書かれている。
「初代様の記録から見ようかの。」
「なぜ?」
「数が少ないので調べるのが楽じゃからの。」
「なるほど。」
アーディアス家の初代である“知恵者の”イザークの遺した文書は、父の言うようにそう多くない。
この壁の内のひとつの面にある本棚、その1/8ぐらいの量だ。私の書斎においてある書籍の1/5もあるだろうか?今時の魔術を学ぶ学生の方が量を持っていそうだ。
確かに二人で調べれば早く済みそうだ。
「儂ゃ、そっちからやる。お前は上からやれ。」
「父上、持ち上げる時に腰を傷めないでくださいよ。」
「老いたりとはいえ、そこまでヨボヨボでは無いわい。」
私と父は手袋をはめ、口と鼻を覆うようにハンカチで覆うと、函を開けて中の文書を取り出した。
そして、そっと書見台に置き、タイトルを改めて読み進めてゆく。
私が見ているのは日誌か手帳のようなもので、その日の出来事や予定などが走り書きに近い筆致で書かれている。文字は統一帝国時代末期に日常的に使われていた、古い字体だ。紙の質は悪く、一部はすでに劣化して崩れたり虫食いがある部分もある。
だが、ずいぶんと前に丁寧に補修がされたようだ。表と裏に分離して裏打ちし、1ページずつ独立させて装丁し直されている。
そのため、手にとって判読できる程度の保存状態が保たれている。
私はそれを15分程度で速読し、元の函にしまった。その後も同様に、過去の記録を読み進めてゆく。
過酷を極める悪魔との連日の戦いや、大戦後の処理についての記録は歴史的に貴重極まりないものだろう。
私はチラリと父を見た。
それに気づいた父は首を横に振る。まだ該当する箇所を見つけられないようだ。
初代のイザークも、今の私のように魔術以外の事でも東奔西走していたらしい。たまに魔術のことも書かれているが、その量は少ない。
「ひょっとして、大聖女がいたから、憑き物落としの魔術を開発する必要が無かった?」
「そうかも知れん。だがそれは調べ尽くさねば、言い切れんことじゃ。」
静かに時が流れていく。一度、昼食と休憩を兼ねて外に出て食事をし、すぐに作業に戻る。
すでに日記は読み尽くし、時間の上では日没を過ぎた頃、私は雑然とした一群の文書をひとつひとつチェックしていた。内容は思いついた事をメモしたようなもので、背景がわからない今となっては意味が取れないものも多い。
時間ばかりが過ぎてゆく。このまま何の成果もないのかと諦めかけていたいた時に、ひとつの文が目に入った。
『憑き物落としの手法について』
「これだ!」
私はおもわず立ち上がって叫んだ。
「見つかったかの?」
「ええ、たぶんこれですよ。」
私は、その数枚の文書を示した。
ハガキ2枚ほどの大きさの紙を小さな文字がビッシリと埋め尽くしている。文字の無い所には魔法陣の略図らしい幾何学模様があった。紙の中央には折り皺があり、かつて二つに折りたたまれていたことがわかる。
いくつかの文字がそこにかかっているが、なんとか読み解けそうだ。
「ふむ…だが未完成か?」
内容を改めていた父が呟いた。
「どうも、研究ノートの一部か、考察をまとめたもののようじゃ。」
「じゃあ、これだけではダメですね。」
「解明の糸口になる文書が他にもあるかもしれん。手がかりを探そうぞ。」
こうして、父と私は夜半まで作業を進めて関連する文書を他にも数点、発見した。
その場で写しを作り、オリジナルの文書を元どおりに収納すると、私と父は禁書庫を後にした。
「いきなり正解というわけでは無かったの。」
「それでも、ゼロから開発するよりマシですよ。」
「ほっほっほ、初代様、さまさまじゃの。」
禁書庫を閉じ、司書のレオンにこの事の口外を禁じると、文書の写しはとりあえず父に預けることにした。
「お前は忙しいじゃろう。これの解読と研究、できれば実用化に向けた実験をしておいてやろう。」
「父上、ありがとうございます。正直、どうやってその時間を捻出しようかと思っていました。今回は甘えさせてもらいます。」
「儂は隠居して、暇は充分あるからの。とは言え、なるべく急ぐかの。」
「ええ、なるべく早く仕上げてくださると嬉しいです。」
こうして憑き物落としに関する魔術の研究は父上に任せることにした。
でも、本当に初代様、様様だ。
やっぱり王国建国時の頃は、下級悪魔や悪霊の類がずっと多かったのだろう。おそらく大聖女が居てもなお、奇跡術だけでは間に合わないぐらいに。
かっこいい英雄譚ばかりが今に伝わるが、実際は何度もほぞを噛むような気持ちになった事があったに違いない。
翌朝は魔法薬でなんとか元気注入して、無理やり宮殿に出仕した。
「おはようございます、閣下。今朝はすっごく顔色が悪いですね?風邪ですか?」
「いや…ちょっと寝不足なだけだ…。」
「承知しました。昼食会の後に午睡の時間を入れましょうね。枕を用意しておきます。」
私はふらつく頭を支えながら、秘書官から今日の日程を告げられた。
今日はまず、アスファルト舗装の予備実験があるので、それに立ち会わねばならない。
「これ、結構時間が長いですね。最初だけちょっと見て、あとは下がってお休みになりますか?」
「いや、そういうわけにはいかん。」
なにせ『言い出しっぺ = 俺』な案件のひとつなのだ。無責任な態度は取れない。
それに建設系の試験なので、騒音と振動で寝ていられないと思う。
「あれも、これも、手を抜けないからな。」
私はあくびをかみ殺して言った。
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