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188 アーディアス家の禁書庫

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 私は久しぶりに屋敷の書庫にこもっていた。宮殿への出仕が嫌で引きこもっているのではなく、調べ物である。

 およそ魔法に関する事柄であれば、我が屋敷の書庫の方が、王立図書館や宮殿の書庫よりも蔵書の数も質も高いのだ。ここにしか無い文献も少なく無い。

 まあ、そういうのは代々の当主が書いた論文とか覚書をまとめたものがほとんどだが。


 書庫にこもっている目的は、ゴルデス卿を護るのに使えそうな魔術の発掘だ。

 あるいは、何かに憑かれても、それを悪影響無く取り除く魔術の再発見である。

 ちなみに、そんな便利な魔術の存在を私は知らない。

 神殿の神官たちは知っているのかもしれないが、アインに訊いてみたところ“速攻で憑き物を落とせるようなのは…はて?”と心当たりが無いようだった。

 アインは生臭っぽいようでちゃんとした神官なので、その点は信用できる。でなければ、王都の大神殿の副神殿長などという、ごまかしの効かない大役は任せられていない。


「坊ちゃ…、いや、旦那様。5代前までの目録はもう調べました。」


 声をかけてきたのは、この書庫の管理をしている司書のレオン・ベルジックだ。

 父が若い頃に引き抜いてきた人物で、彼がいなければわが屋敷の書庫は混沌に侵されていたに違いない。私もその傾向があるが、父も、話によると祖父も整理整頓は苦手だったらしい。

 私も子供の頃、この書庫の本をそこらの机の上に置いたままにしていたら、手加減無しのゲンコツを食らわされた。彼は相手が公爵家の跡継ぎだろうが、一切容赦しない整頓魔だった。

 父曰く、そういう人物だからこそ引き抜いてきたのだとか。

 ちなみに司書としては超有能である。どこにどの本や記録があるかを知り尽くしている。


「ふ〜む…。」


 私は腕組みして考えた。


(憑き物落とし、それも悪魔がらみのものが必要とされた時代に書かれたものなら…。)


 近年のものから探していたのは間違いだったかも知れない。

 何でもそうだが、それがどうしても必要だ、となると、人間はあの手この手で、それを実現するために想像を絶する技を生み出してしまうものである。

 例えば現実地球でのウーツ鋼がそうだ。

 紀元前に南インドで製鉄に従事した人々は(ふいご)坩堝(るつぼ)と木炭で、恐ろしく高品位の鋼を製造した。現代では製法が失伝した、その鋼の再現に成功したのは19世紀になってからだ。

 そうしたことを考えると、スマートな方法ではないかも知れないが、古い記録から見るのが正しいかも知れない。

 それも悪魔の脅威が今以上に強かった時代のだ。わが屋敷には、幸いそれがある。


「ちょっと父のところに行ってくる。」

「おや、もう──まさか、初代様の記録を?」

「そうだ。禁書庫の鍵を開けるぞ。」


 私は父の書斎に向かって早足で歩いた。

 『禁書庫』とは、ずいぶんと物騒な名前だが、本当に物騒なものは…ちょっとだけしか無い。

 考えてほしい。好き好んで自分の屋敷に危険物を置いておきたいか?そういうことである。

 ほとんどは歴史的な記録や書籍で、外の光や多湿に触れさせたく無い、保存を優先させたい古い文書だ。

 アーディアス家は魔術や錬金術を伝えてきた家なので、文書もそういうものが多い。中にはみだりに他人の目に触れさせない方が良いものもあるのは事実だが、それでも“古の邪神を喚ぶ召喚術”みたいな厨二心に満ちたものは無い。


「父上!禁書庫の鍵を開けたいので、来てください。」

「何じゃ!藪から棒に。」

「対悪魔や憑き物落としの魔術を探したいので、初代の記録類を参照したいのです。」

「あぁ…そういうことか。」


 父は読んでいた本を退け書見台を畳むと、奥にある小さな引き出しから長さ15cmほどもある大きな銀色の鍵を取り出した。


「“対になるものと入れ替われ”」


 そう言うや否や、父が手に持った銀色の鍵は消え失せ、替わりに古びた重そうな、同じぐらいの大きさの真鍮(しんちゅう)の鍵がその手に現れた。

 あらかじめ紐づけておいた一対の物品を入れ替える、転移魔術の一種“交換”だ。

 父が持つ古い真鍮の鍵は、本物の禁書庫の鍵の片割れだ。

 もう半分は私が持っている。それはいつも私の腰に下がっている。


「ほれ、行こうかの。」

「ええ。こうして一緒に書庫に行くのは久しぶりですね。」

「まあ、こんな機会がない限り、お前も行こうとは思わんじゃろう?」


 書庫は司書のレオンが普段から掃除を心がけているので、埃にまみれてなどいない。

 それでも禁書庫の扉は普段触れらることが無いので、言い難い古ぶるしさが感じられる。

 この扉自体が魔法道具になっていて、この鍵でないと開けられない。

 そもそもこの扉は屋敷のどこかにある秘密の閉じた部屋に繋がっていて、書庫自体と禁書庫は物理的に繋がっていない。

 その秘密の部屋はいちおう、この屋敷のどこからしいのだが、それが本当かどうかすら分からない。窓も無いし、魔術的な干渉を防ぐ結界が張ってあって探知も効かないのだ。

 私と父は同時に重厚な扉に付けられている二つの鍵穴に鍵を差し込んだ。


「“アーディアス家の親子二代が命じる。扉よ開け”」


 二人で同時に鍵を回すと、ガチャンと(かんぬき)の外れる音がして、あっけないほど扉が開いた。


「灯よ。」


 父は“灯火”の魔術で禁書庫内を照らす。


「思ったより汚くないですね。」

「汚くしていては初代様に面目が立たんの。」


 私の中を見た感想に、父はそう答えた。

 古びた絨毯が敷かれた室内は思ったより天井が高く、扉のある部分以外、すべて本棚となっている。中央には“灯火”の光が点いた大きなシャンデリアがあって、十分に明るい。

 その真下には書見台がいくつか設置されている大きな木製の机と、椅子が数脚あった。


「私はここで待機しております。見てはいけないものも、ありそうですから。」

「すまんの。ここで番をしていてくれ。」


 レオンの申し出に父はそう答えると、私と父は一緒に室内へ足を踏み入れた。

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