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186 建築技術の革命

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 計画を進めていくと、変更が加わるのはしばしばあることだ。

 私の立てた計画もその例に漏れず、ソルベイ法でガラス製造に必要なソーダ灰を作る工場の最初の工程に変更を加えた。


「セメント?あの硬くなる石灰泥か?」

「ええ、そうです。どのみち石灰岩を焼くのなら、セメント工場にしようと思って。」

「だが、あれは脆いだろう?」

「硬くて頑丈で水中でも固まる、そういうものを作ります。」

「なんと!」


 フレーヤス卿は驚きの声をあげた。

 いわゆるセメント、ポルトランドセメントは現実地球では19世紀初め頃に開発された。近代の産物なのだ。

 それまでのセメントというと、レンガや石材の接着や詰め材に使うもので、それだけでは固まるのが遅く、脆いものだった。

 古代ローマ時代にはポルトランドセメントに近いセメントをローマ人は使っていたのだが、製法が不安定で、信頼性には欠けていた。その上、製法自体も忘れ去られてしまった。

 現在残っているセメントを使った古代ローマの建築物は、よくできたものの内、数々の天災・人災に耐えて残った幸運な一握りにすぎない。

 

 ソルベイ法では飽和食塩水にアンモニアを加え、二酸化炭素を吹き込んで、目的であるソーダ灰こと炭酸ナトリウムの前駆物質である炭酸水素ナトリウムを得る。

 その二酸化炭素の原料として、石灰岩を熱して二酸化炭素を得るのだが、それならセメント工場を建ててしまった方が効率が良くないか?と気づいたのだ。


 ポルトランドセメントを作るときには石灰岩・珪岩・粘土・鉄鉱石などを粉砕し、混ぜ合わせたものを高温で熱する。焼いた原料に粉砕した石膏を混ぜて出来上がりだ。

 この原料を焼く過程で大量の二酸化炭素が出る。

 だったら、これを回収して使ってしまおう、という発想だ。


「なんというか、こんなもので…。」

「まあまあ、素材の比率を変えて試作しましたので、ちょっと見てください。」


 セメントの素材はメーカーによって微妙に配合が違う。用途の差はもちろんだが、原材料は天然の岩石などだから、素材に合わせて最適の比率となるように調節しているのである。

 セメント製造は、鉄工所で出る鉱滓(スラグ)を素材にできるところも利点のひとつだ。

 鉱滓(スラグ)は肥料にも使うが、将来それだけでは消費しきれなくなる可能性が高いので、建築材料として大量に必要なセメントの素材に加えてしまえば廃棄物にせずに済む。

 ちなみに鉱滓(スラグ)を使ったセメントは高品質なので、現実地球でも一般的な建設資材だ。


 私はあらかじめ素材を粉末にして熱処理した、試作品のセメントを作っておいた。そして実際に水を加えて固まるのを見せる。


「ほほう!これは!」

「砂や砂利を加えると、もっと硬くなりますよ。」

「固まる時間に差があるな。用途に合わせて使い分けると良さそうだ。」


 フレーヤス卿は興味津々といった感じだ。そして、すぐに固まるのに必要な時間の差に気がついた。

 補修用はすぐ固まらないと困るし、ゆっくり固まるものは塗った後などに手直しが利く。


「ふむ、これ単体で構造を作れば、従来の煉瓦造りや石造りよりも強固な構造となるのではないか?それに形の自由度が高そうだ。枠を作るのが手間になりそうだが…。」


 さすが、数々の工事を成し遂げてきた才女だ。フレーヤス卿はどう使えば良いかにも理解が及んだらしい。


「ただ…攻撃を受けた際に煉瓦造りや石造りよりもダメージが大きそうだ。ああいう素材を積んで作るものなら、崩れた部分だけを取り除いて補修すれば良いが、これは難しそうだ。」


 手に持ったトンカチで、固まったセメントを軽く叩きながらフレーヤス卿は呟く。


「そこで、鉄筋を入れるのです。」

「テッキン?」

「テッキンとは鋼鉄の細長い棒です。それを多数中に仕込み、強度を増すのです。」

「なんと、大胆な!しかしそんな大量の鉄を…、あ、そうか。たくさん作れるようになるのだったな。」


 一瞬、ぽかんとしていたフレーヤス卿だったが、すぐに爛々と輝くような目で私を見た。


「アーディアス卿!」

「あ、はい。」


 私はちょっと気圧されてしまった。


「これは、建築技術における革命だ!」


 実際、そうだろうと私も思う。

 喜びに満ちた表情で、フレーヤス卿は語る。


「この技術があれば、どんな夢のような建築物でも実現できるだろう!」


 さすがにそれは言い過ぎのように思うが、鉄筋コンクリート技術が無ければ、現代の現実地球の年の風景は19世紀とそれほど変化しなかっただろう。当然、高層ビルなんかも存在できるわけがない。

 ダムなんかを造る際にも役に立つはずだから、アル・ハイアイン王国が進めたいという堰の建設計画にも大いに役立つだろう。

 アーノルドが旅立つ前に教えてやろう。きっと交渉のカードになる。


「この技術だが、王太子殿下にも教えた方が良いのでは?」


 同じことをフレーヤス卿も思ったらしい。


「そうですよね。あの計画の際に使える技術がありますよ、それを我が国が提供しますよ、と言うのはカードになりますよね。」

「今すぐ、教えに行った方が良いのでは?出立は明後日だったろう?」

「今すぐ行ってきます!」


 私はすぐさまアントニオに取り次いでもらい、宰相閣下と一緒にいた彼に教えた。

 感謝もされ、褒められもしたが、宰相閣下からは“そういう情報は、もっと早くに言え!”とお叱りも受けたのだった。

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