181 副産物
拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。
チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。
主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。
開発の合間に、副産物としていろいろなものを開発した。
例えば扇風機だ。
離宮を改修する職人たちのために作った集塵機の設計をちょっと変えるだけだ。
安全のためにカバーをつけて、風の強さを三段階に変化できるようにした。
扇風機を作ろうと思ったのは、季節が夏で、部屋の中に多人数で設計をしていると暑いからだった。
うちわをあおぐ自動人形のような魔法道具はこの世界にもあったのだが、プロペラという発想が無かったので扇風機のようなシンプルな装置を思いつかなかったのだ。
「暑い日にこれ最高ですね〜。」
秘書官は胸元をくつろげて、真ん前に陣取って涼んでいた。適応が早い。
“冷却”の魔術を組み込んだ特別仕様のものを試しに製作したら、なかなかいい感じだ。
屋敷にも置いたら皆に好評だったし、特に調理場に設置したらモラン以下、料理人たちが揃って感謝を述べに来た。
考えてみれば、夏でも火を使わないわけにいかない調理場が地獄のような暑さになるのは必然だった。
そこに“冷却”の魔術を組み込んだ扇風機は、確かに恵み以外の何物でもないだろう。
そうしていくつか試験機を作ってから、国王陛下や王太子のアントニオら王族や、日頃世話になっている宰相閣下ほかの大臣や将軍たちに完成版の扇風機を贈った。
詳細は省くが、簡単に言えば絶賛を受けた。
秋になるのでヤー=ハーンには持ってゆかないが、まだ暑いであろうアル・ハイアイン王国には贈り物とされることになった。
「ダルトン、これは良いぞ!我が国の独創的な技術力の証としても価値がある。例の堰建設の件も話が弾みそうだ。」
「そうか?そんなもので?…まあ、それで外交上の話がうまく進むなら喜ばしいが。」
「謙遜するなよ。涼しい風がずっと吹き続ける魔法道具など無かったんだから。」
アントニオは特に賞賛してくれたが…。
確かにアル・ハイアインはヴィナロスより暑いから、こうしたものは重宝されるだろうな。
で、扇風機を特許にしようかどうしようか悩んだが、国家事業の研究の副産物でできたものなので見送った。
公金で研究して、その成果を特許にして利益を得るのは公金の私物化だ!と、指弾されかねない。
娘の闇堕ち Bad End の内、聖女エンドルートの断罪理由にあった『アーディアス家の悪行』というのはこうしたことであった可能性がある。
そこで慎重を期すことにした。
妻のマリアからは“ひと儲けするチャンスでしたのに”と残念がられたが、一家没落のリスクと引き換えにはできない。
水道の緩速ろ過システムを使った浄水場の構築も副産物のひとつだ。副産物といっても、これはアンモニア合成工場の必須のシステムの一部として作ったのだが。
必要な指示を書き込んだ浄水場の基本的な図面を引いて、宰相閣下にお願いした。
宰相閣下は“こんなもので?”と疑問を呈していたが、私の言を信じて通してくれた。話のわかる上司というのはありがたい。
王都ヴィナロスには、これまで水道と井戸で水が供給されていた。
水道は基本的に川の水を引いただけで浄水装置は沈殿池がある程度だし、井戸は外部からの汚染を防ぎきれない。そのため、王都は過去に何度も水を介した流行病に襲われている。
しかし緩速ろ過システムを整備したことで、水の汚染の問題をほぼ解決できたはずだ。
水質が良くなったので、電気分解する水の純化に必要な魔法道具の必要魔力量をかなり減らせた。
やはりシステム運用のコストが下がるのは、なかなか気分が良いものだ。
水道水の水質が良くなったことで、以前のように生水を飲んで腹を下す人も少なくなったらしい。
ゆくゆくは塩水の電気分解で得た塩素を最後に加えて、より衛生的にすれば安心だ。この副産物で苛性ソーダも製造できるから、石鹸も作れるようになる。
緩速ろ過システムは大まかに沈殿池・濾過池からなる。
沈殿池で川の水に含まれる泥や砂、そのほかのゴミを取り除いて、ある程度綺麗になった水を砂の層に通し、微生物の作用で完全に浄化する。
緩速ろ過システムは、自然の中にある、そのまま飲めるような綺麗な湧き水ができる条件を人工的に再現したものと言ってよい。
システムの維持は月に1回ぐらいの定期的な掃除ぐらい。維持や浄化のために特別なエネルギーを必要とせず、建設に必要な技術的要求水準が低い点で優れている。
欠点は水の供給量を急には増やせないことだが、これは規模の拡大などの比較的簡単な方法で解決可能だ。
むろん完璧ではないから、あまりにも元の水の汚染がひどいと浄化しきれないし、除去困難な一部の寄生虫や物質も存在する。
だがこの世界では、まだそこまで水質汚染は深刻ではない。緩速ろ過システムで余裕を持って対処できる範疇だ。
将来は下水道も整備し、衛生・栄養面を整えれば、流行病は無くなりはしないだろうが激減するだろう。
そして、ひとつ問題を解決したら、次の問題を解決しなければならない。
鋼鉄の供給である。
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