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179 本格化する研究開発

誤字報告、ありがとうございます。どんなに気をつけても、自分では気付けないものですね…。


拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 その後、改修現場の福利厚生はただちに整えられた。

 マスク用の布の配布がなされたほか、水を撒くのに便利なようにバケツとジョウロも用意された。

 だが、濡れるとやりづらい作業もある、という声があった。

 そこで私は簡単な集塵装置を製作した。そんなに複雑なものではないので3日で作った。

 魔術で回転する球を作り、その回転軸に合わせた棒を差し込み、そこに翼をつけたのだ。つまるところ送風ファンだ。

 これに柳の枝で作った輪を骨にした、布製の長い蛇腹の筒を窓の外に出す。

 球の部分に動力源として魔晶石を嵌め込み、これを外せば止まる簡単仕様にした。これなら魔術の心得が無い者でも容易に操作できる。

 出力調節はできないが、ホコリを外に出すだけだからこれで良いだろう。


「息が詰まるようなことも無いですし、作業現場がホコリまみれにならないし、それに風が入ってくるので涼しいし、職人たちは大喜びです。閣下、良いものをご用意くださり感謝いたします!」


 現場監督のシャイドと職人たちの頭たちから、平伏して感謝された。

 私はそんな大したものを作ったとは思っていないのだが…。貴族が庶民にこうした事をするのが、わりと能力主義のヴィナロス王国でも珍しい事なのかもしれないな。


 これを見て、さっそく設置したいと言い出したのはケイトだ。


「これがあれば、万一、有害なガスや悪臭が発生した時にただちに外部へ放出できる。すごく便利だぞ。」

「ああ、なるほど。そう言われれば。」


 これまでは窓を開けて換気をしていたのだという。

 考えてみれば、このプロペラを使った送風装置というものは、この世界には無かったのだった。


 スクリューや竹とんぼ程度のものなら現実地球でも紀元前から存在するのだが、これで風を送るという発想はようやく16世紀になってから始まった。

 ある程度実用的なものができたのが18世紀、現代の現実地球で見られるようなものの原型が生まれたのは、なんと19世紀半ばからだ。意外と新しいのである。

 もっとも紀元前1世紀ごろにいた丁緩(ディン ファン)という漢王朝時代の発明家が、七轮扇(しちりんせん)という扇風機を発明した記録があるそうだ。

 ただ、これは回転する軸にうちわを取り付けたようなものであったらしく、現代の現実地球の扇風機とは設計が完全に異なる。


「送風用と排気用の二つあると便利だな。出力を3段階ぐらいに変えられると使い勝手が良さそうだ。設計を頼めるか?」

「え、ま、まあ。そうだな、設計だけして図面を渡すから、実際の製作をやってもらった職員に話を通しておく。打ち合わせは君の方でやってくれ。」

「君も──いや失礼、閣下もお忙しいものな。お手間をかけて申し訳ない。」


 ケイトは途中で言葉を改めたが、私は他人行儀は無しでいいさと応えた。

 本当はダクトみたいなものをきちんと構築した方が良いのだろうが、今から設計に変更を加えると工期が遅れそうだ。

 今は1日でも早く事業を完成させたいので、それは後にしよう。


 ケイトが最初に取り掛かったのは鉄の研究だった。

 アンモニア合成の要である高温高圧反応装置の建設材料も、アンモニア合成の触媒も、軸受け(ベアリング)の素材も、全部鉄である。


「平行して研究できる。それに金属を対象にした錬金術の研究は私の本分だ。君が予備実験をしてくれていたしな。」


 実際の実験は彼女の元に集まった、かつての学生たちを集めておこなわれた。


「先生!」

「君たちと無事に再会できるとは、感無量だな…。」


 ケイトは元学生たち一人ひとりと抱き合い、お互いの無事を祝した。


「我らは今や保護されている身だ。ヤー=ハーンの王立学院のように、興味の赴くままに研究するわけにはいかないが、恩義に報いぬ事もできない。」


 ケイトは集まった彼らを前に演説する。


「それに、我らに与えられた課題は実現すれば世界初であるばかりか、世界を変える力となるものだ。もちろん良い方向にな。これは我々、錬金術師の本懐とするところだ。誇りを持って取り組もうでは無いか。」

「はい!」


 ケイトが実験計画を立て、それに基づいて助手を務める多くの元学生たちが実験を進める。

 錬金術は私の専門外なのでよく分からないのだが、冶金学や化学と通じるところが多いのは現実地球の歴史上のそれと同じで、魔術以外にもそうした魔力を使わない純粋に物理的・化学的な工程や実験も多いようだった。


 ソルベイ法による炭酸ナトリウムの生産工場建設のための予備実験と、ゴムの精製・加工技術の確立も急がれた。

 これはもこの世界では錬金術の範疇なのだが、ケイトの専門からはややずれるのと、普通の魔術で対応した方が良い部分があるため、基本的なタイムスケジュールをケイトが立て、実験系におかしなところが無いか査定するという形で進められることになった。


「錬金の技でも私の専門は金属なのでな。それ以外の物質の操作、有機物の操作は大筋しか知らないのだ。済まないね。」

「構わないさ、誰にでも得手不得手はある。そもそも、これを私一人でやれと言われたら過労で死んでしまうよ。本当に助かる。」

「学生に無機系と、有機系に詳しい者がそれぞれ一人いる。彼らを中心にやってもらうから大丈夫だろう。非専門の私が言うのもなんだが、彼らは相当に優秀だよ。」

「それは嬉しいな。」


 もちろん、ケイトたちだけではうまく事は進まない。

 建物や機械設計に優れたフレーヤス卿の部下たちも装置や設備の設計・実験・検証・改良に余念がない。

 なにせこの世界にはCADも無ければ、コンピューターシミュレーションもできないのだ。

 全部、実際に図面を引き、作ってみなければならない。たいへんな手間だ。

 宰相閣下にお願いして、その伝手でナハムの腕の良い職人を集めてもらった。

 おかげで、なんとか必要な数は確保できた。


「魔晶石がたくさん要るな…。今はまだ買えるから良いが、将来はわからん。やはり発電設備の建設して、魔力に頼らないエネルギー源の確保は避けては通れないかもしれないな…。」


 私は机の上に通常の行政文書の他に、たくさんの設計図や報告書の山にため息をつきつつ、ペンを走らせた。

 なかなか仕事は楽になりそうにない。

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