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177 ケイトの初出仕

拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

「正直なところ、無事にヴィナロス王国にたどり着けるとは思いませんでした。」


 ケイトはカップを置くと、言った。


「そこまで不穏な情勢なのか?」

「…少なくとも、そう思わせるだけの状況はあったわね。」

「失礼、ちょっと改めさせて。」


 私は印を結ぶと“魔法鑑別”の魔術を使って彼女を見た。おかしな点は見当たらない。“霊的偽装”のような魔術でごまかされたりもしていないようだ。


「問題は見つかった?いちおう、用心はしていたつもりだけど。」

「大丈夫みたいだ。疑って悪かったね。」


 念の為、ケイトに憑き物や悪意ある魔術がかけられていないかチェックしたが、問題は無さそうだった。同行してくれた外務省の二人も調べたが問題無さそうだ。


「セキュリティ上の懸念が増しているのね。」

「気になる事件が発生してね。みんな対応に追われているのさ。」

「いい心がけだと思うわ。今のヤー=ハーンは何が起こっても不思議じゃないもの。」


 彼女の言葉に、応接間にいる皆は不安と驚きに顔を見合わせる。


「これ以上はここで話さない方が良さそうね。」

「そうしてもらえると助かる。外交上の国家機密に関わるのでね。」

「ケイト師が来たこと自体、言わん方がええの。」

「ええ、父上。そう願います。母上もマリアも、もちろん家内の者たちにも、今夜の件については口をつぐんでもらいます。」


 私はアーディアス家の当主として、この件について箝口令を敷いた。

 そして私はパン、と手を叩いて話を締める事にした。


「遅い時間だが、ささやかながら夕食をご用意したので召し上がって行かれよ。ケイトも、同行のお二人も食事はまだだろう?」

「ええ、今日は食事をとる間も惜しんで移動したもの。」

「そりゃあ、辛そうだ。」


 同行の二人も一礼する。


「公爵様、お心遣いに感謝します。」

「とんでもない。ケイトを無事に送ってくれたのだから、お安い御用ですよ。」


 その日の夜は3人に屋敷で泊まってもらった。

 翌朝、執事のマイケルからの報告で、外務省の二人は夜が明け切らぬ内に出立していったのを知った。ゴルデス卿に報告に行ったのだろう。




 翌朝、宮殿へと向かう馬車の中で私とケイトはいろいろな話題で盛り上がっていた。


「状況が状況でなければ、あなたの家の書庫を見せて欲しかったのだけれどね。著者ティセオス本人が持ってた『変転の書』が見たかったな。あるのでしょう?」

「あるけど、あれの鍵は父上に管理を任せているんだ。父でないと持ち出しできない。」

「残念。」

「はは、落ち着いたら貸してあげるよ。」


 ちなみにティセオスと言うのは昔の偉大な錬金術師で、変転の書は彼が自分の研究をまとめた著作だ。我が家にあるのはその原本で、最晩年まで注釈やメモを書き込んでいた貴重なものだ。

 学生の頃に興味にかられて見たことがあるが、細かな字でページが黒く見えるほどの緻密な書き込みに目眩がした。

 昔の当主が大枚をはたいて遺族から買ったらしいが、普段はしまいっぱなし…もとい、他の貴重書とともに厳重に管理されている。


 ケイトがヴィナロス王国にいるのは極秘なので、あまり目立たぬように移動してもらっている。

 今はカツラを被ってさらに男性用の青い文官の装いを身につけてもらい、その上で“変装術”で外見をごまかしている。

 利用されることの少ない離宮を研究施設兼ケイトの居住施設に改修しているので、完成するまでは我が屋敷で過ごしてもらう予定だ。


「しかし、君の“変装術”は見事だな。ぜんぜん違和感が無い。」

「そりゃあ、ここ3ヶ月近く、この術を使わない日は無かったぐらいだもの。習熟するわ。」


 今、ケイトはちょっと女顔の、メガネをかけた色白の文官にしか見えない。


「そうだよな。再会した日の夜のも見事だった。そこらにいそうな行商人の男に化けてるなんてね。」

「もう変装のためのメイクも慣れたものよ。」


 そういって彼女はクスクスと笑った。


「ところで、今後の予定はどうなっているのかしら?」

「そうだな。近いうちに陛下の御前で、宰相を交えてヤー=ハーンの内情について証言してもらう事になると思う。」

「わかっているわ。私の知りうる限りをお答えします。」


 ケイトはうなづく。


「それから、君の錬金術の知見と経験を我が国のために役立ててほしい。」

「もちろん、恩返しは十分にさせてもらうわよ。面白そうな内容だしね。」


 ケイトは指を折ってすでに提案されているテーマを数える。


「どれからかかるのが効率的かしらね?魅力的なテーマがいくつもあったけれど、そちらでやってくれていた予備実験の結果を読んでから決めようかしらね。」

「ある程度、並行してやってもらうことになる。私も可能な限りサポートするので、要望があれば遠慮なく言って欲しい。」

「すごくいい条件!じゃあ、遠慮なく甘えさせてもらおうかしら。」

「なるべく早く成果を出してもらえると助かる。準備期間はあればあるだけ良い状況なんだ。」


 それを聞いてケイトは笑った。


「学生の時を思い出すわ!課題提出に追われて、寝ないで実験してたりしたわねぇ。」

「魔術事故を起こさないように、キチッと体調管理してくれ。」


 ケイトに倒れられては困る。彼女の存在は今の計画の重要な前提なのだ。

 ケイトが居なくても実現できるかもしれないが、それではこちらのタイムリミットに間に合わないだろう。それでは困るのだ。


 宮殿に着くと、いつもどおりに秘書官のアンドレに出迎えられる。

 私はケイトのことを彼に紹介して、便宜を図るように命じておく。


「あなたがケイト師でらっしゃるのですね。お初にお目にかかります。ヴィナロス王国の宮廷魔術師長付き公設第一秘書官、アンドレ・モリソンでございます。今後お見知り置きを。」

「こちらこそ。ご丁寧なご挨拶、痛み入りますわ。」

「正直申し上げますと、しばしば閣下があなたのことを話題にされますので、あまり初対面という気が致しません。レディ、私のことは役職名でお呼び捨てください。」

「まあ、閣下はなんと?」

「主に、学生時代の無茶振りについて。」


 ケイトは器用に首だけを私に向けた。表情の形は笑顔だが、目だけが笑っていない。


「閣下、後で是非お尋ねしたいことがございますわ。」

「え、あの、手短かにお願いします。」


 私は思わずしどろもどろになった。

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