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175 設計・検討・実験、また設計

拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 私はフレーヤス卿の部下たちの手助けを受けて、アンモニア合成の炉心部とそれが収まる高温高圧反応装置の設計にかかっていた。

 十分な機械的強度を持った構造は、機械や建築・鍛治・冶金の技術を持った彼らでないと実現できそうにない部分が多い。

 本体部分は鋳造で作るが、一部は削るし、合わせる部分の取り合わせや漏れ防止のためのパッキン部材に使う銅系合金の開発と加工など課題はたくさんある。

 何よりも本体の製作が大事業だ。

 すでに職人たちと設計担当が議論しながら図面を引いている。

 本体は複数の種類の鉄を組み合わせて造る。その素材の鉄も外殻部分は固く耐久性のある鋼鉄、内張の部分は本体の水素浸潤による劣化を防ぐために可能な限り純度の高い鉄が要る。

 これにはケイトの弟子たちが努力してくれていた。

 現実地球の歴史では、ハーバーが発明した基本技術を基盤に、ボッシュが実用に耐える炉を設計した。

 彼らは忍耐強く、あらゆる試行錯誤の果てに成功へ到達したわけだが、私は答えを先に知っているのだからだいぶ成功までの道のりをショートカットできている。

 もちろん、この世界の技術水準に合わせた方法で成功するには、現実地球とは違ったアプローチも必要になる。

 魔術を使ったシステムがそれで、なんでそうなっているのか検証が難しい点が気になって仕方がないが、今回ばかりは黙って便利に使わせてもらう。

 水の電気分解・電気分解した気体の精製・大気中の窒素の収集・水素と窒素ガス混合気体の圧縮・触媒の製作・反応炉の加熱と冷却・アンモニアを溶かした水からのアンモニアの分離・高温高圧反応装置の構造強化と耐久性向上…などなど、このシステム自体が巨大な魔法道具の様相を呈している。

 科学力が足らない分を魔法で補っている感じだ。


「はぁ〜。なんとも、これは魔術と技術の融合だな。こんな図面は見たことが無い。」


 視察に訪れていた宰相閣下が感心して図面を見回していた。

 私とフレーヤス卿はその様子を期待半分、恐怖半分で、緊張して見守っていた。

 宰相閣下はナハムだから、こうした機械製作には種族的に強い。

 それに立場上、大掛かりな機械製作や建築の現場を視察することもあるから、一般人よりずっとこうしたものに詳しい。


「予算は足りておるのか?」

「製品はソーダ灰の原料だけではなく、肥料にもなりますので、産業省と農務省の予備費を当てております。」

「魔術の永久付与化(エンチャントメント)には相当数の魔晶石が必要であろう。確保できているのか?」

「はい。魔晶石の国外持ち出しが禁じられましたので、在庫を持て余す可能性のある魔法道具商たちから購入できるようになりました。足りない分は魔術技官に造らせています。」

「ふむ、分かった。予算は宰相府からも都合をつける。陛下のお墨付きだ。遠慮なく言ってくれ。」


 宰相からの質問に主に私とフレーヤス卿の二人が答え、技術的な部分はそれぞれの担当が回答した。

 宰相は満足気にうなづくと、もう一度設計図面を眺めて微笑んだ。


「アーディアス卿、ケイト・ディエティス師はいつ頃に王都へ到着の予定なのか?」

「はい。おそらく3日後かと。外務省の者が同行していますので、ゴルデス卿が詳細に把握していると思います。」

「そうか、待ち遠しいな。本当は歓迎パーティーと行きたいところであるが、そうもいかぬしな。」

「内々に、私など数人で無事を祝います。」

「ぜひ、そうしてやってくれ。」


 あらかじめ私がやっておいた図入りのプレゼンテーションは、なかなか効果があった。

 “幻覚”の魔術を使ってパワーポイントを使ったような図を示して説明したのだが、これが分かりやすいと好評だったのだ。

 そのためソーダ灰製造工場も、アンモニア製造工場も、ヴィナロス王国の国力を大いに増大させ、外交上の影響力を増す礎になることがよく理解されたようだった。

 おかげで予算の確保がずいぶん楽だったらしい。


「本格的な設計はケイトが来て素材や触媒に関する研究を始めてからになりますが、それまでに予備実験をいくつかして、課題解決へ目星をつけておきたいと考えています。」

「うむ、期待しているぞ。時間の余裕はあまり無さそうだからな。」


 加えて、ヴィナロス王国には機械製作・建築/土木工学・冶金学に強いナハムが定住しているおかげで、技術開発などに理解がある気風もあるだろう。

 いろいろと私は幸運だったと言わざるを得ない。


 宰相閣下を見送った後、私は宮廷魔術師長執務室に戻った。

 宮廷魔術技官主任のクロード・オーバネルは、宮殿の新しい魔術防御計画を書いた分厚い設計書を持参してすでに待っていた。


「すまんな。待たせたようだ。」

「お気になさいますな。閣下が多忙を極めておいでなのは、私でも聞き及んでおります。」


 そう言って、すぐにテーブルの上に図面と書類を広げた。


「まずこちらは、宮殿で働く職員に予定している護符(タリスマン)の種類です。」

「ふぅむ…良さそうじゃないか。」


 精神的な防御力を上げる魔術・精神的な攻撃に対する防御の魔術などを組み合わされたそれは、防御系魔法道具として悪くないものだ。

 そしてユニークな点がある。


「この警報(アラーム)の魔術の使い方が実に良いな。いや、これの効果が発揮されないのが一番なのだが。」

「それは我ながら良い発想だと思っております。」


 オーバネル主任は胸を張った。

 それは何かというと『憑依されたら警報(アラーム)が鳴る』というものだ。

 憑依の何がやっかいかと言えば、外見ではわからない場合がある点だ。

 ならば、憑依されたらされたで、憑依されたことがわかるようにすればいい。逆転の発想である。


「たとえ神殿の護符(タリスマン)であっても、完全に防ぎきれるものではないしな。これはいいアイデアだ。」

「閣下にそう言っていただき、光栄でございます。」


 オーバネル主任は優雅に一礼する。

 護符(タリスマン)の以外にもハード面での防御魔術と、その配置についても話し合う。

 これは宮殿の防衛を担う白金竜騎士団と協議して決めてきただけあって、およそ問題は無いように思われた。


「だいたい、良いんじゃないのか?白金竜騎士団とよく話し合って、一番効果的なやり方を目指してくれ。話しにくいことがあったら、私が直接バーナード卿に話してみるから遠慮なく相談してくれ。」

「ありがとうございます。必ずやご期待に応えてご覧に入れます。」

「ははは、本当は必要ないのが一番なんだけどねぇ。」


 私とオーバネル主任は苦笑しあった。

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