174 アンモニア合成への挑戦
拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。
チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。
主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。
ビン詰めの技術ができて、当面の卸し先となりそうな軍の将軍たちの覚えもめでたい。
モランには主として、安全性の確保を最優先に技術開発を進めるように言った。
食った、美味かった、腹を下した、では話にならん。
問題はガラス瓶の大量生産と、その原料の確保となった。
ガラス器と言えばアル・ハイアイン王国なのだが、なるべく国産化したい。
理由は単純にこの世界における輸送効率の問題だ。形にしたものより、原材料状態のものの方が運びやすい。
三つの主要な原材料のうち、硅砂と炭酸カルシウムは自給可能だから、あとは炭酸ナトリウムだけだ。
そこでこの炭酸ナトリウムの原材料であるトロナやナトロンなどの鉱石を大量に手に入れられないか、いろいろ働きかけをしているわけだ。
トロナやナトロンは乾燥地帯の塩湖、または塩湖が完全に干上がった跡の岩塩層などで採れる。
アル・ハイアイン王国は乾燥がちな国土だから、ガラス産業が盛んということは、どこかに それらが存在している可能性が高いはずだ。
「ミョール川河口地帯の西にある塩湖のほとりで、アーディアス卿の言っていた鉱石が採れるようですぞ。」
産業大臣のガロベット卿は、諸々のネットワークを介して産地を調べ上げてくれていた。
しかし問題は、それを輸出してくれそうに無いということだった。
「ほとんどが国内でのガラス産業用に使われてしまうようです。」
「困ったな。これが無いと加工が難しい。」
炭酸ナトリウムが必要な理由は、ガラス加工に必要な温度を下げることにある。
温度が下がることで、加工しやすく、炉の構築などの技術的なハードルが大きく下がるのだ。
アル・ハイアイン王国は友好的な隣国とは言え、無い袖は振れない。余分が無いものを寄越せと無理強いするわけにもいかない。
「調査をして、アル・ハイアイン王国のどこかに鉱床が眠っていないか調べたいものですが…。他国でそんことをするわけにはいきませんしね。」
「そうですな。他の手段はあるので?」
ガロベット卿はやや心配そうな顔で訊いてくる。
私はそれに泰然として答えた。
「あります。ご心配なく。」
まあソルベイ法で炭酸ナトリウムを合成するわけだが、ひとつだけ問題がある。
重要な原材料のアンモニアの調達だ。
大気中の窒素を水素と反応させてアンモニアを合成するのだが、問題は技術的にハードルが高めなのである。
大気中の窒素を集める。これは魔術でできる。
私が竜の狩場の道中で開発したドライアイスを作る魔術を改変すれば良い。
この世界の大気中の窒素濃度が分からないが、現実地球と同じならばおよそ78%のはず。実験しないと分からないが、この間のドライアイスを作るよりはるかに魔力消費は少なくて済むはずだ。
もちろん人間がやるわけにはいかないから、新たに設計した魔法道具を組み上げる必要があるだろう。
水素の確保だが、これは水を電気分解すれば良い。
問題は電気分解のための電力だが、これも魔術でなんとかなりそうだ。雷を落としたり、雷撃を発する魔術があるのだから、電気分解に必要な電気エネルギーを発する魔法道具を作れば良い。
これの開発に手間を食いそうだが、まあなんとかなるだろう。
将来的により大規模になったらミョール川に建設予定の堰に発電設備を建設して水力発電にする、と言う手段に発展させるのも視野に入れる。
触媒の『二重促進鉄』という鉄系合金の触媒なのだが、これもケイトに内容を伝えれば良いものを作ってくれるだろう。
触媒を開発したアルヴィン・ミタッシュは約2万種の触媒を試したそうだが、私は答えを知っている。
それにスウェーデン産の磁鉄鉱を元にしたそうなので、探せば同じようなものが見つかりそうだし、ケイトに合成してもらっても良い。
最大の問題は、アンモニア合成の要である高温高圧反応装置の開発・建設にある。
なにせ高温・高圧下で行う反応だ。反応装置は半端なく頑丈でなくてはならない。
そのため装置は鉄で作るのだが、水素が鉄の中の炭素を取り出して脆くしてしまうので、それを踏まえて造らなくてはならない。
ここが一番ハードルが高そうだ。
目標値は30メガパスカルに耐える容器、温度は1000℃に耐えるもの。
30メガパスカルというと、天気予報でよく聞くヘクトパスカルの100倍の単位だから、1気圧に対しておよそ3000倍の圧力だ。
温度は材料が鉄だから溶けることはあるまいが、冷却装置は備えなければならない。
この世界の製鉄技術だけでは無理そうだ。魔術的な強化手段を合わせなければ、到底実現不能だろう。
これについても錬金術師たちは経験豊富だろうから、ケイトに期待するしかない。
こうした技術的困難さがあっても、それでもやってみようか、と言う気になったのは窒素肥料も造れるからだ。
肥料の中でも、もっとも重要な窒素肥料が合成できるようになったことで、人類は初めて安定した食料供給が可能になったのだ。
アル・ハイアイン王国からの穀物輸入は今後も変わりないだろうが、それでも自国の生産能力を上げておくに越したことはない。
それに窒素肥料自体が輸出品目として使えれば、我が国にとって好ましい。
なにせ素材は水と大気。元手はタダに近い。
「ガロベット卿。ちょっとやるべき事は増えましたが、必ずものにします。必ず間に合わせます。大船に乗ったつもりでいてください。」
私はあえて強気で述べたのだった。
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