172 ケイト、虎口を脱する
拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。
チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。
主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。
アレクの竜オタク化が確定してしまったので、ナターシャ同伴で、ときどき王都に滞在するようになった魔獣使いのダヴィッド・ガンゲス殿を訪問するようになった。
「まさか、あのクリスヴィクルージャが。」
と、話を最初に聞いたときは絶句していたようだったが。
竜と人間、竜の狩場とヴィナロス王国の関係強化につながるならと、彼は快く協力してくださっている。
どのみち禍累を避けるためにアレクを近隣の国に留学させるつもりだったが、その留学先は竜の狩場になりそうである。
親として、またアーディアス公爵家の爵位の第一相続候補者の留学先として、それが良いかは別問題なのだが、竜の狩場は手を出しにくいという点では合格である。
同じぐらい手を出しにくいのは大聖都だが、所詮は人間の国のひとつなのでいくらでも隙はある。
「ま、揉まれて肉体的には強くなるか…。魔術とかも学んでほしいが。」
だが実際に竜と日常的に接するとなると、魔術的な肉体強化術や防御魔術は必修という気がする。
あまり肉体的に強いだけのワイルド系脳筋になったら困るが、魔獣使いたちを見るにそれだけは無さそうな気がする。
ナターシャには竜と日常的に接する際に必要になりそうな事柄の基礎を教えるように、と今後の教育方針について指針を示しておいた。
これは彼女だけでは荷が重いのはわかりきった事なので、ダヴィッド殿と王立魔術院で竜学を専攻する学者に協力してもらえるように渡りをつけた。
アレクのための特別教育チームの結成である。
ちょっと面白くなってきたので、幼児教育機関のチームにも一枚噛ませることにした。
公私混同と言われかねないが、成果は公にフィールドバックする事で認めてもらうことにする。
そんな折に、ケイトから連絡が入った。
いつもの通りハト便だ。さっそく開いて、内容を確かめる。
“
拝啓
ダルトン・アーディアス公爵へ
ご機嫌よろしゅう。
貴国の外務大臣ゴルデス侯爵とその部下の方々、何より君の尽力によって、遠回りになったがヴィナロス王国へと入国できた。
まずはその報告と、君への感謝を申し上げたく、この文をしたためる次第だ。
君は最近、ずいぶんと活躍しているようじゃないか。
君の発案による案件だと、私に協力を要請する内密の文書がそちらの国の機関から届いている。
詳細は書かれていないが、どれもワクワクさせるような内容じゃないか!
一人の錬金術師として、こんな明日が楽しみになるような気持ちになるのは久しぶりだ。実に嬉しい。
これがひとつ目の感謝したいことだ。
そして、弟子たちの世話をしてくれてありがとう。
君の元で、新しい事業の研究に携わっていると聞く。スムーズにそういった事業に関われたのは、君のおかげだろう。
自分が原因ではないとは言え、師として彼らを十分に指導できなかったことに負い目を感じている。
彼らの能力に不足があれば、それは私の責任だから、責めないでやって欲しい。
これが二つ目だ。
そして何より、ヤー=ハーンからの脱出を後押ししてくれて、深く感謝している。
私だけで上手くやりおおせたかどうか。
君からの援助は大変心強かった。本当に恩に着る。
何をするにも、まずは生きて出国できねば意味がなかった。
これが三つ目だ。
大恩ある君に報いるにはどうすれば良いだろうか?
もちろん、ヴィナロス王国からの内密の要請は喜んで受けさせてもらうよ。
私にできることならば、君からの要望にはなんでも応えたいと思っている。
一日も早い再会を望んでいる。
君と、君のご家族の健勝ならんことを願う。
敬具
ケイト・ディエティス
”
良かった!
だいぶ遠回りになったが、ケイトが無事にヴィナロス王国に入国できた。まだ完全に安心できるというわけではないが、峠を越えたとは言えそうだ。
本当であればケイトを迎えに行きたいぐらいだが、今の状況がそれを許さない。仕事が手一杯で、北の国境まで行く時間を捻出するのは不可能だ。
明日までにアスファルト舗装道路の第一回試験の設計図に意見をつけて返さねばならないし、その次は最初のゴムの品質性能試験が控えている。
どちらも今後のヴィナロス王国を、ひいては世界を変えるようになる技術なので、ここで私が抜けて進捗を遅らせるわけにはいかないのだ。
そもそも、ヤー=ハーン王国との開戦は予想で2年後。
間に合うかギリギリなのだ。技術開発の目標達成は一日でも早い方が良い。
「ケイトには来て早々で悪いが、すぐに仕事をしてもらわねば。場所を手配しておかないとな。」
ケイトが我が国に来て、国家プロジェクトの中心的な研究メンバーになることはすでに確定している。
できれば、これを機に技術開発系の閣僚級ポストを作ってしまい、ケイトをそこに迎えても良いのではとすら思っているほどだ。
そのためには手柄の一つや二つは必要なので、今回のプロジェクトには全力で当たってもらいたいというのが私の希望だ。
私が以前、御前会議で語ったように、宮廷魔術師長の職務からこうした技術開発や教育系の業務を切り離して専任の閣僚級ポストを設けるべきだと考えている。
問題はこれまでキッチリ同数を維持していた文官と武官のパワーバランスが崩れることで、武官側から反発がありそうだ。
閣僚ポストを増やすには、そちら方面への働きかけも必要になるだろう。
今回の一件でハッキリしたのだが仕事量が多過ぎる。
これではアンドレアへ目が届かなくなり、魔女エンドを避けられなくなってしまうかもしれない。
そうなれば本末転倒だ。
家庭と子供達への教育に力を注ぐためにも、宮廷魔術師長の仕事を減らさねば。
そのためには閣僚ポスト二つを新設することが必要なのだ。
「魔女エンドで死ぬ未来を回避するために、過労死したでは意味が無いからな。」
私はケイトへの返答の手紙を書くと空へ飛ばした。
それがまっすぐ北へと飛んでゆくのを、秘書官に諌められるまで宮廷魔術師長の執務室から私は眺めていた。
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