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170 アレクの『覚醒』

拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 気がかりなことが多い…と言うか、気がかりなことばかりだ。

 しかし、それでも子供達は育ち、教育と社会性を学ばせねばならない。

 今朝はアレクを連れて、午前中いっぱいは領地内をゆっくりと視察する予定だ。

 これは妻のマリアとアレクの乳母のナターシャ、そして執事のマイケルと話し合って決めた。

 こうした機会を今後増やし、領地の住人にアレクを知ってもらう。もちろん、アレクに一般庶民の暮らしぶりを肌で感じてもらう事も目的のひとつだ。

 当たり前だが馬車で巡るのではなく、乗馬して行く。

 私がアレクを前に乗せて、乳母のナターシャも別の馬に乗り、他に護衛が数人つく。


 朝食を終えた後、用意させた馬に乗る。

 (ドラゴン)の狩場から帰ってきた頃にはちょっとは引き締まっていた腿が、この1ヶ月あまりで鈍っているのを感じた。

 私が先に乗り、ナターシャが持ち上げたアレクを馬上で受け取る。


「だいぶ、アレク様も重たくなりました。」

「実に結構なことじゃ無いか。君が世話に気を配ってくれているおかげだよ。」

「お褒めいただき、ありがたいお言葉です。」


 万一に備え、アレクのベルトと私のベルトを結びつける。

 これでアレクが興味の赴くままや感情に駆られて動いて落馬、ということは無いはずだ。

 この年頃の子供の瞬間的な行動は大人には予想不可能なのだから、こうしてハーネスを付けておかないと危ない。

 アレクは馬上からの眺めが目新しいせいか、周囲を見回してうぉーとか、すごい!とか言っている。


「そうか、すごいか。すごいよなー。お馬さんは背が高いもんな〜。」

「うん、たかい!すごい!」


 私はナターシャが乗馬したのを確認すると、武官のバーネットと彼の部下の兵士3名が前後について目的地へと向かう。

 目的地と言っても、今日はアーディアス領の中心都市ナルボンの朝市に行って、神殿で礼拝し、その後は行きとは違ったルートで帰宅、という予定だ。


 アレクの知っている『外』は、まだ屋外であるという程度の世界だ。彼はまだ実際の外は庭やその周辺の放牧地しか知らない。

 もちろん、たまに町や王都に行くことはあるが、その場合は正装して馬車に乗って出かけるのであり、自由気ままに行動できるわけでは無い。

 そうした事情があったので、もう3歳だし、日常的に外部とのふれあいを増やすべきでは無いだろうか?と数日前にナターシャに提案してみたのだ。


「そろそろ、領民たちの暮らしぶりや日常の様子をアレクに知ってもらいたいと思うのだが、君はどう思う?」

「賛成でございます。新しい刺激を受けて、アレク様の意欲や活動が向上すると思われます。」

「では、さっそくマリアにも話すよ。マイケルとラウルにも状況を聞いておく。」

「承知いたしました。必要と思われる準備は私の方で進めておきます。」


 そして今朝、決行日となったわけだ。

 アレクがぐずらないかが唯一の心配だったが、今の様子を見るにその必要はなさそうだ。


「ダルトン、アンドレアは私がみているから。アレクをお願いね。」

「もちろんさ。帰って来る頃にはたくましくなってるかも。マイケル、屋敷の方は頼むよ。」

「いつもどうり、万事怠りございません。行ってらっしゃいませ。」

「さあ、アンドレア。パパとお兄ちゃんにバイバイしましょうね〜。」


 アンドレアの首はまだ座りきっていないので、馬に乗せるわけにはいかない。それでマリアと屋敷でお留守番だ。

 私とアレクの一行はマリアとアンドレア・マイケルなど数人に見送られて、ナルボンへと向かう道に馬の鼻を向けさせた。


 季節は夏。

 麦の収穫も終わり、農民たちは干し草にするための草を放牧地で刈っている。

 今年は気候が順調で、麦も豊作だった。蓄えを増やすことができるだろう。戦争を控えている状況で、これはひとつ明るい要素だ。

 今日の天気は良く、青い空には適度に白い雲が浮かんでいる。

 川に沿って生えるポプラの木陰に入ると、涼しい風に乗って白い綿毛のようなものが飛んでくる。柳絮(りゅうじょ)──ポプラなどの柳の仲間の種子だ──が雪のように舞う。

 アレクはそれを掴もうとして、何度も手を伸ばす。

 まったく美しい日だ。


 だがそれは一陣の風と共に終わりを告げた。


 一瞬、大きな黒い影が横切った。

 程なく、突風が柳絮(りゅうじょ)をひと息に吹き散らすと、すぐに地響きと周囲から悲鳴が上がった。


 ヴヴォロロロロ…


 砂埃があがり、奥に大きな影が見えた。低いうなり声が響く。


「旦那様!お下がりください!」


 武官のバーネットがすぐに槍を構えて、部下たちと共に対峙する。


「ナターシャ、こちらへ!」


 私は突然のことに固まってしまった彼女に声をかけた。それで正気を取り戻したのか、ナターシャはすぐに私の隣に移動する。


「不在と聞いたが、ここにいるではないか。おはよう、アーディアス卿。ご機嫌いかがか?」

「その声はクリスヴィクルージャか?」

「そうだ。人間の流儀を学んだのだ。これで良いのであろう?」


 埃がおさまると案の定、もはや見慣れた感のある大きな赤竜(レッドドラゴン)がいた。

 (ドラゴン)に人間のような表情は無いのだが、目の前のクリスヴィクルージャは得意満面といった感じだ。


「旦那様、この(ドラゴン)とは知り合いなんす…ですか?」

「なんと説明したものか…。クリスヴィクルージャ、こちらは予定があって移動中だったので暇では無いのだが。」


 バーネットは視線だけこちらに寄越して訊いた。言葉がちょっとだけ乱れたが、今は無視する。

 私はアレクをかばって抱いていたので、視線だけ動かして様子を見た。

 静かなのでビックリし過ぎて声も出ないのかと思ったら、クリスヴィクルージャをガン見していた。


「か──」

「か?どうした?」

「かっこいい!」


 アレクがこの赤竜(レッドドラゴン)を見ての第一声はそれだった。


「…アレク様?」


 ナターシャが問う声が妙によく通った。


「なんだ、そのチビ助は?」

「私の息子だが。名前はアレクだ。」

「かっこいい!かっこいい!」

「なんだ、お前は子持ちだったのか。」

「かっこいい!」


 アレクはクリスヴィクルージャを指差して、身を乗り出し、嬉しそうだ。

 そこで私はピーンと来た。


(あ、これ。目覚めちゃった…。)


 このぐらいの小さな男の子って、恐竜とか怪獣とか、巨大ロボとかダンプカーみたいな、ゴツくてデカくて圧倒的なパワーがある感じのものが好きじゃないか。

 アレクの場合、今のがきっかけで『(ドラゴン)=かっこいいもの』と強烈に脳に焼き付いたに違いない。


(これは…厄介なことになったぞ。)


 私は新たな悩みに、内心で頭を抱えた。

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