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169 やればできるじゃないかと褒めるところなのか、どうなのか

拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

「先日は申し訳なかった。こちらの管理不行き届きだ。再発防止策を策定し、可及的速やかに実行する。」

「今後は、このような事案発生の予防に努められることを、我々は強く求める。以上だ。」


 私の目の前にはアーノルドがいた。

 先日のクリスヴィクルージャの突然の『訪問』で実験が台無しになったことへの侘びを入れるために、近衛五軍の代表として来たのだ。

 そして少しの間、官僚的な言辞に満ちた話し合いをした。


「とりあえず埋め合わせの算段はついたから良いよ。でも、貸し1ってことで。」

「その“貸し1”が怖いな。」

「怖く感じるのは利子ってことで。」


 近衛五軍が私の元にアーノルドを寄越したのは、彼が今回の一件の侘びを入れるのにふさわしい地位だというのもあるし、彼と私が親友だということから穏便な話し合いで終わらせたいという意向もあるのだろう。

 それが分からぬ私ではないし、そもそも(ドラゴン)が我々の社会のルールをキッチリ守るとは思ってもいない。

 そもそも、お互いに殺害を禁じているとは言っても事故というのは発生する。

 例の盟約が結ばれて以降に、(ドラゴン)がヴィナロス王国内で一人の人間も死なせなかったかと言えば嘘になる。

 人間が(ドラゴン)の常識を知らないように、(ドラゴン)も人間の常識を知らない。

 多少のトラブルの発生は想定内である。


「フレーヤス卿は都合が合わぬと、詫び状しか受け付けてくださらなかったのだが…。」

「ん?フレーヤス卿は昨日の実験のやり直しをしているよ。謝罪やらはそちらでやってくれと任されている。私も後で顔見せするけれど。」

「そうなのか。改めて謝罪の機会を得たいものだ。」

「それなら、再発防止策と実施要綱をまとめた書類を渡した方が納得するだろうね。フレーヤス卿はそういう方だよ。」


 軸受けの開発は設計・加工・改良が同時並行で進行中だ。

 ゴムタイヤ開発も硫黄を加えて硬さを調節する加硫と、ゴムタイヤの設計・改良を並行して進められている。

 アスファルト舗装の実用化技術開発も急ピッチで進められている。

 これらは1年後を一つの時間的区切りとして実用化を目指している。

 なかなか厳しいスケジュールだが、近くケイトがヴィナロスに入国予定なので研究は加速するはずだ。

 フレーヤス卿も私も本業があるので、技術開発系の仕事はできそうな人物に任せたいという気持ちもある。


「あちこちから人材をかき集めて、ヤー=ハーン王国との大勝負に間に合うように大忙しだ。正直なところ、必要な社交パーティーすら挨拶程度の出席しかできない程度には忙しい。」

「それはそれで、大変だな。」

「なんか変な噂を立てられていたら教えてくれ。そういうのはマリアが手を打ってくれると思うけどな。」


 近世レベルの社会では、顔の効く範囲の広さがいろいろな意味での影響力の範囲という面があるから、社交パーティーというものは貴族にとってそれなりに政治的重要性がある。

 それをかなぐり捨てねばならない事態なのだから、本気で忙しいのだ。


 騒動の原因のクリスヴィクルージャだが、ダヴィッド殿からのお小言を聞かされてご機嫌斜めらしい。

 ダヴィッド殿は当面の間、(ドラゴン)の狩場の大使のような役となって王都に滞在することとなったのだ。

 (ドラゴン)たちもダヴィッド殿には一目置いているようなので、彼の言葉なら耳を傾けてくれるのだろう。


「相手は(ドラゴン)だ。こちらも完全は望まないよ。」

「そうしてもらえると助かる。」


 その後、アーノルドからは(ドラゴン)を含めた軍事訓練について話をしたと言うか、愚痴を聞いた。

 案の定、まだ上手くいかないらしい。


「せっかく、君が危険を冒して(ドラゴン)の狩場まで行ってくれたというのにな。」

「元々の提案をしたのは私だからね。むしろ苦労をかける原因を作ってしまって済まない。」

「いやいや、あれで計算上は戦力の差がかなり縮まったのだ。希望が持てるのは君のおかげだ。今は絶望や無力感が最大の敵だ。」


 アーノルドの言葉は確実に正しい。


 結果として軸受けの試験は一日遅れで済み、スケジュールへの影響は最小限に止まった。

 しかし、屋敷に帰るとまた別の一件が私を待ち受けていたのだ。


「だ、旦那様!」


 家に帰ると、執事のマイケルが血相を変えて出迎えた。


「どうした、何事があった!?」

(ドラゴン)が訪問してまいりました。」

「それは赤い(ドラゴン)で、クリスヴィクルージャと名乗らなかったか?」

「左様でございます。お知り合いで?」

「知り合いというか、顔見知りというか…。」


 私は頭が痛くなりそうだった。

 今日の日中に、クリスヴィクルージャがこのアーディアス家の屋敷を訪問したらしい。

 そして、訪問の意思を伝え、私に面会したい旨を述べたという。

 どうも、私がアポを取れ!と教えたのを律儀に実行したらしい。

 ここは、やればできるじゃないかと褒めるところなのか、どうなのか、判断に悩む。


「明日、返事を聞きに来ると言っておりましたが。」

「まったく…何を考えているんだか。まあ良い、私に面会したい場合は宮廷魔術師長執務室に連絡して、面会可能かどうか訊けと言え。そうでなければ、朝は短時間なら対応可能だと伝えておいてくれ。」

「承知しました。」


 マイケルは慇懃に頷いた。


「ところで皆、恐ろしがっていますが…。」

「あの(ドラゴン)はヴィナロス王国の人間を害することは無い。その点だけは安心して良い。」

「頭では承知していても、恐怖に打ち勝つのはなかなか難しゅうございます。」

「ヤバそうなら父を頼れ。(ドラゴン)との対話の経験もあるからな。」


 歴史の長いアーディアス家といえども、さすがに(ドラゴン)の訪問を受けたことは無かったはずだ。

 道とか、いろいろ補修が必要になりそうだが…。

 財務に何か言われないか、ちょっと心配だ。

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