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157 ドラゴンの押し売り

拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

「ド、(ドラゴン)だぁぁぁっ!!」

「ヒィィィィッ!」


 知識として知っていても、ほとんどの人間は体と心が本能的に恐怖を感じてしまう。

 (ドラゴン)とはそういうものだ。

 特使派遣の時に同行の者たちが恐慌におちいらなかったのは、軍人、それも精強で知られる者が多かったからに過ぎない。

 一般人なら(ドラゴン)というだけで、恐ろしさにすくみあがってしまうものだ。


「あっ!馬が!」


 実験用の馬車を引いていた馬が御者を乗せたまま、遠くに走り去ってしまった。


(ドラゴン)はこちらに任せて!君達はあの馬車を追え!無くすわけにはいかないぞ!」


 私はその場にいた人員に指示を飛ばして、こちらを見ている(ドラゴン)に向かった。


「アーディアス卿、ここは騎士団を呼んだ方が良くないか?」

「大丈夫ですよ。むしろ毅然としたところを見せた方が良いですよ。こないだの一件で学びました。」

「そ、そうなのか…。」


 私はフレーヤス卿に止められたが、気にせず前に進む。


「え〜と、あなたは…。人違いでしたら失礼を。クリスヴィクルージャですか?」

「そうだ!わざわざ会いに来てやったぞ。」


 目の前の大きな赤竜(レッドドラゴン)・クリスヴィクルージャは喉を鳴らして唸るような声をあげた。笑っているらしい。


「それはそれは。ところで何のご用で?ええと、こちらは実験の途中だったんですが…。」


 私とフレーヤス卿は周囲を見回した。

 休憩用の天幕は吹き飛び、綺麗に均しておいた地面はクリスヴィクルージャの着地と歩行でデコボコに、肝心の馬車は怯えた馬もろとも遠くに行ってしまった。

 実験が台無しである。


(……文句言ってもいいよね?許されるよね、これは。)


 さすがにイラっとした私は、表面上は穏やかにクリスヴィクルージャに向き合う。


「むぅ?実験?邪魔したか?」

「正直に言いますと、台無しになりました。」


 そう答えると、クリスヴィクルージャは長い首を回して周囲を見回した。


「人間のものは脆弱だな。」

「ここは人間の国です。(ドラゴン)を基準に考えないでください。それに、いくら盟約があっても王国内のほとんどの場所は(ドラゴン)の来訪を前提に作られていません。」

「それで脆いのか。」


 まるで人間の方が思慮が足りないと言わんばかりの言いぐさだ。

 (ドラゴン)からすれば当然の思考なのかもしれないが。ここは曲がりなりにも人間の国である。

 どうしてクリスヴィクルージャがここにいるのか分からないが、人間の国に来た以上は人間の流儀に従ってもらおう。

 …できる限りであるが。


「それと、もうひとつ。私はこの国の重鎮なのですが、あらかじめ使者か手紙を出して訪問の予定を告げておくものなのです。よほどの緊急時以外は、いきなり来ても会えないのですよ。」

「今、会えているではないか。」

「普通は、事前の面会予約を取っていない者は追い返されるのです。」


 そこで目の前のハタ迷惑な(ドラゴン)は何かを思い出したらしい。


「そういえばダヴィッドがそんな事を言っていたな。面倒な事をするな人間は。」

「ちゃんと知ってるじゃないですか!実験を台無しにした落とし前はつけてもらいますよ。」

「あの馬を馬車ごと持って来れば良いのか?」

「部下に命じて回収に向かわせましたので、やらなくて良いです。それに馬が怯えたのはあなたが急に来たからですよ。」

「ではどうすれば良い?」


 なんか、クリスヴィクルージャが妙に下手だ。(ドラゴン)としては、だが。


「そもそも、なんでここにあなたがいるのですか?」

「お前が金角の黒竜王に、我々をこちらに寄越すように頼んだのだろう。」

「あ〜、あれか。」

「そうだ。人間の国に行ってみたい者を募集していたので、我は応じてやったのだ。感謝せよ。」


 フンと、鼻を鳴らして、クリスヴィクルージャは得意げに顎を上げた。

 近衛五軍の加勢として(ドラゴン)を派遣してくれるという件、金角の黒竜王はさっそく実行してくれたのだ。

 ありがたい。ありがたいのだが…。


「だが、こちらに来ても人間の軍隊の訓練に付き合ってやる以外は暇なのだ。」

「それはそちらの事情でしょう。実験を台無しにした落とし前はキッチリつけてもらいますからね!軍務尚書に話しておきます。」


 (ドラゴン)がこんなに駄々っ子な生き物だとは、思ってもいなかった。

 それになんで、と言うか、よりにもよってクリスヴィクルージャが来るのか。


「なんだ。お前は国の重鎮というわりに、なんの話も聞かされていないのか。」

「担当が違うんです。」


 私はやれやれと思いながら、ため息をついた。


「そうか。まあいい。我はお前に興味がある。」

「は?」


 私は思わず聞き返してしまった。


「お前を近くで観察しながら、人間という生き物について研究するのだ。代わりにお前の実験とやらも気が向けば手伝ってやろう。」

「何言ってるんだ!?」


 だがクリスヴィクルージャは聞く耳を持たなかった。

 まず、そういうところだぞ!


「地上最強の種族たる我々に見込まれるとは幸運な奴め。ありがたく思うが良いぞ。」

「ちょっと待って!」

「落とし前とやらは、後日十分に埋め合わせてやる。楽しみにしていろ。」


 そのように、一方的に言いたいことだけ言うとクリスヴィクルージャは翼を広げて駆け出し、悠然と空へと飛び立って行った。


「…大変なものに見込まれてしまったな。同情する。」


 フレーヤス卿が慰めてくださるが、どうしろと言うのだ、これは。

 嫌だからと言って『チェンジ!』とか言うわけにはいかないのだ。


「どうしましょうかね…。」


 ようやく戻ってきた馬と馬車を横目に、私は力なく応えるのだった。

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