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155 変わる子供達

感想ありがとうございます。


拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 私とクジモ僧院長はがっしりと握手を交わした。


「クジモ僧院長、ご健勝そうで何より。ずいぶんと賑やかですね。」

「はい。公爵様のおかげでございます。みんな、こちらが私どもを助けてくださったアーディアス公爵ダルトン様だ。ご挨拶なさい。」

「こんにちわ!公爵様!」


 微妙に声が揃わずズレたりしているが、左胸に手を当てての一礼など子供ながらにちゃんとしたものだった。

 子供達の顔つきなどから、栄養状態もちゃんとしているとみえる。

 これについても、毎日の食事がパンか、あるものを適当に煮込んだお粥みたいなスープだけ、ということが無いように、きちんと栄養価を考え、それでいて低予算で可能な食事のレシピ集を作らせて配布した甲斐があった。

 子供の栄養失調による成長不良は特に骨格に現れる。

 中でも歯・顎・身長などは、大人になってから栄養状態を改善しても回復しない。成長期の子供の栄養管理というのは、大人以上に大切なのだ。


(いろいろな意味で、シリアル開発を急がせねばならんな。)


 私は子供達の様子を観察して頷いた。

 その後、子供達は他の修道女に連れられて別の場所に行く。教室の移動の途中だったらしい。

 その後ろ姿を見送りながら、クジモ僧院長が言った。


「私どもではできなかった、勉学などを教えてあげられるようになりました。」

「子供達の様子はどうか?」

「以前よりも活力に満ちているように感じられます。勉強も驚くほど高度な内容ができる子もいるほどで…。」


 私は廊下を歩きながら孤児院内での教育実験の様子をクジモ僧院長と話す。先ほどの子供達の様子を見ても、いい方向に進んでいるように思われる。

 特に()()()()()()()()()()()()()()()()の意義は大きい。


「そう言えば、ニコルはどうしているのでしょうか?薬師ギルド長夫妻の元なら安心かとは思うのですが。」

「問題ないようだ。ああした希少な才能の子供の教育はどうあるべきか、事例研究の蓄積が必要なので勉学などを我々に任せてもらっている。虐待まがいの事など私が許さんよ。」

「それを聞いて安心いたしました。」


 ニコルというのは、薬師ギルド長夫妻の元に養子に入った“癒し”属性の男の子である。

 まだ2歳なので、絵本の読み聞かせとか、積み木やボールを使った知育教育のほか、ウサギや猫などの小動物を使った情操教育、水に溶いた色付きの砂糖水や塩水を使ってのごくごく初歩の魔術教育などが試みられている。

 なにせ超貴重な魔術属性の持ち主なのだ。

 絶対に失敗は許されないし、教育とは名ばかりの虐待行為で人格が歪んでしまわれたら困る。

 彼についても、周囲が勝手に将来のレールを敷いてしまっているわけで、心苦しくはあるのだが…。

 その一方で、優れた効果の魔法薬(ポーション)を創り出せる天才の薬師が居れば、どれほど心強いだろうかとも思う。

 なんとも身勝手なことだが。


 教育実験の効果はこちらが思っていた以上だった。

 孤児院には10歳未満の子供が一番多いのだが、思った以上の言語能力・コミュニケーション能力・数学能力なのどの論理的思考能力、身体能力の向上が認められた。

 何よりも情緒面での自己肯定感や意欲の面が改善されたらしい。らしいと言うのは、まだ数値的評価が難しいためだ。

 でも数値化されていなくても、それが概ね事実であろうというのは、ここの子供達の様子でわかる。


 以前は静かだったが、静かなだけだった。

 子供達に僧院での修道生活を基本にさせるのは、はっきり言って酷だろう。あれは良くも悪くも、内省的で、静かな環境を求める大人のためのものだ。

 それに孤児の保護と養育とは言っても、それは『神の慈悲の実践』という名の大人側の都合に子供をつき合わせているだけに過ぎない。

 たまたま、それが孤児たち自身の生存に有利になるだけで、孤児たちのためにやっているわけではない。

 私のやっている事も自分自身の生存のためのなので、五十歩百歩だと言われてしまえばそれまでだが。


「我々とて、聖典以外となると特に学問を積んだわけではございませんので、正直なところ助かったというのが本音でございます。」

「そちらの気苦労も減ったのなら、たいへん結構な事だな。」


 そう言われればクジモ僧院長の顔色も良くなったような気がする。

 双方に利益があったのなら、これは win-win で良いことにならないかな?


 私たち一行はクジモ僧院長に別れを告げると、次の視察先に向かう。

 次に向かったのは火・土・雷・金属の魔術属性を持った子供達に鍛治技術を教えてくれている、鍛治師の工房だ。

 ファンタジー物語での鍛治師の仕事といえば剣とか鎧が思いつくのかもしれない。

 しかし、武具よりも需要が多いのが農機具だ。

 それ以外にも大工道具をはじめ、さまざまな製造業や工業の工具を作る鍛治師、釘や針金などの建設に必要な鉄製品を作る鍛治師など、鋳物を作る鋳物師と並んで鍛治師の重要性は高い。


 そのため鍛治師向けの魔術属性を持った子供達に、基礎的な勉強と並行して鍛治師の仕事を教えるコースが設けられている。

 もちろん、ある程度は物事の分別が付いていないと危険なので、他の分野でもこうした『職業体験コース』を始めるのは6歳以上の子供達だけである。

 それでも、身体の危険があるような作業はさせないのだが。


「まあ、雑用が減ったような。減った分、別の雑用が増えたような気もしますがね。」


 太い腕と盛り上がった肩の筋肉が目立つ、受け入れ先の鍛治工房の親方は言った。


「教えがいはあるんですよ。なにせ、鍛治師向きの才能だとわかってますからね。実際、筋が良い。それで、ちょっと打たせてみたのもいるんです。」

「ほう。それでどうだ?」

「釘作りはもう任せました。それに──」


 親方は視線を工房の方に向けた。その視線の先には金床で槌を振るう12歳ぐらいの男の子がいた。


「──自分で工夫しながら、うまく打つ。炉と鉄があの子の言うことを聞いているようで。」

「ほほう。」


 魔術属性が技能面で反映されると言うのはこう言うことか!と私は納得した。

 おそらく、特定の属性を帯びた霊子(エーテル)が扱うものの属性とある種の共鳴を起こすのだ。


「あの子の属性は、火と金属かな?」

「そうです。あの子の勉学が済んだら、うちで雇いたいぐらいですよ。」


 少し年かさの子の場合どうなるか不安があったのだが、なんとかなるようだ。

 この世界では現代の現実地球ほど覚えなければならないことは多くないから、ギリギリ間に合うのかもしれない。


 そんな感じで午後の時間を視察で使い、一度宮殿に戻ってから幼児教育研究機関のメンバーと意見交換をおこなって今日の日程を終了したのだった。

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