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153 生まれのゆえに

拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

本作品は『月曜日・水曜日・金曜日』の午前04:00時に更新です。

チート無し・特殊能力無し・死に戻り無し・(ほぼ)事前知識無し。

主人公自身の知識と知恵と度胸と才覚でなんとか破滅の未来を避けようとするお話です。

 憑依!寄生!擬態!そしてスライム系!

 ヤー=ハーン王国が、本当に魔界の大公“死を嘲笑う者”ザカトナールの支配下に置かれている、あるいは強い影響下にあるのが本当ならば、侵入する悪魔やアンデッド、魔物(モンスター)は尋常なものではないと考えざるを得ない。

 侵入防止だけでは無く、標的となる可能性が高い重要人物に防御手段を常備してもらうのは良い案だ。

 そこに近衛三軍の警備が付くのだから、この世界で可能な最善策と言えるのではないだろうか。


護符(タリスマン)にどのような魔術を付与するかは別に検討するとして、誰に持たせるかが重要です。そちらを先に決める方が良いかと。」

「そうだな。陛下は当然として、次は──私か。」

「左様でございますね。お世継ぎでございますから。」


 アントニオの発言を私は肯定する。

 彼は幼馴染である以上に、次期国王なのだから死なれたり廃人にされると取り返しがつかない。

 こういうのを経験すると王政というのは不安定だなと思う。


「王妃陛下も優先してほしい。」

「もちろんでございますとも。肉親の情もおありでしょうから。」


 ルイーズ・フォッセベーク・ド・ヴィナロス王妃陛下はヴィナロス王国北方の有力貴族の出身で、縁者には北方の諸王国の王族や有力貴族も多い。

 恒例行事以外にも、内外から文化人や学者を招いたサロンを主宰している。

 私も魔術関係の催しの際にお招きをいただいて、妻のマリアと共に末席に連なったことがあった。

 物静かで穏やかな物腰の高貴な貴婦人と言った印象だったが、視線の鋭さが記憶に残っている。


 その王妃陛下が悪魔に害された、となれば、それは国内問題だけでなく外交にも影響が及びかねない問題に発展する可能性がある。

 それは、うまくすればヤー=ハーン王国への諸国の足並みを揃えるきっかけになるかもしれないし、逆に矛先が我が国(ヴィナロス)に向くきっかけにもなり得る。

 状況を利用するにしたってハイリスクに過ぎる。

 それはアントニオの妻であるカミーユ・キャストレット・ド・ヴィナロス王太子妃殿下にも同じことが言える。


「それとキャストレット王太子妃殿下、閣僚やカステル卿他の将軍の皆様も優先ですね。」

「アーディアス卿、催促したわけではないのだが済まないな。」

「機密を盗むなら組織のトップを狙うのが早い。当然のことですよ。」


 バーナード卿はちょっと申し訳ないような顔をした。

 あいつは部下思いだから気後れしているのだろうが、将軍なのだから、そこは堂々と受け取って欲しいものだ。


「バーナード卿は拠点防衛の要。万が一にも害されることがあっては困ります。ましてや、防衛側で疑心暗鬼に陥るのは向こうにとって願っても無い状況です。疑念の芽は最初から取り除かなくては。」

「そうだな。ありがたく受け取らせてもらう。」


 ここで悪魔学の専門家ジャン・ミストラル師から発言があった。


「恐れながら…。技術的な事でございますが、悪魔・アンデット相手なら奇跡術の方が効果が高いかと。神殿と協力することはできませぬか?」

「それは私も考えておりました。この場合の護符(タリスマン)霊素術(エーテルアーツ)よりも奇跡術の方が向いている分野でございます。」


 宮廷魔術技官主任のクロード・オーバネルもそれを支持する。


「実は神殿側からどう助力を取り付けるか、陛下は思案しておられたのだが、ここにきて好材料が手に入った。」

「ひょっとして“伝説の大聖女様の生まれ変わり”だと、アインが騒いでいた例の娘ですか?」

「それだそれだ。大聖都の教皇猊下が大変強い関心を抱いてらっしゃるそうだ。」


 私の指摘に、アントニオは頷いた。


「手っ取り早く言えば、その娘を大聖都に渡す代わりに、こちらが必要とする助力を全部よこしてもらおう、というのが陛下の計画だ。」

「なるほど…。では神殿側からいかなる支援を受けるか、協力体制をどう築くかは交渉が始まっていると?」

「そう言う事だ。なにせ“伝説の大聖女様の生まれ変わり”だ。向こうは喉から手が出るほど欲しがっている。利用しない手は無いさ。」


 アントニオとアーノルドのやり取りを聞いて、私は納得しつつも、やるせない気持ちになっていた。

 見ず知らずの孤児の幼子とは言え、私の立てた計画が元で『善』属性という魔術属性を持っているのがわかったばかりに国家間の交渉の具にされてしまうとは。

 彼女は身体的・社会的な悲惨さからは免れるだろうが、その子は一生を“伝説の大聖女様の生まれ変わり”として規定されてしまうのだ。

 それ以外の生き方は完全に否定される。本人の意思とは関係なく。


 私たちも強大な敵相手になりふり構っていられないのが実情だが、それでも、これはあまりにも酷い話ではあるまいかと思う。

 意図したことでは無いとはいえ、現代の現実地球の倫理観を持った人間として非常な心苦しさを感じた。


(いつの日になるかわからないが、懺悔に出ねば気が済まないな…。)


「その赤ん坊が見つかったのはアーディアス卿の発案した計画の成果だ。さすがだな!」

「そんな、偶然に過ぎません。」


 私は内心の葛藤を押し隠して、満足げに語るアントニオに答えた。


「そんなわけだ。護符(タリスマン)は神殿に発注しようと思う。窓口には王都大聖堂のアイン副神殿長を予定している。」

「ならば安心ですな。」


 アーノルドは表情を緩めた。


 その後は護符(タリスマン)にどういった防御を持たせたいかが話し合われ、また防御用魔術の設置位置についても討議が続けられた。

 こうして、およそ3時間ほどを費やして宮殿の魔術防御システムの検討会は最初の幕を閉じたのだった。

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[気になる点] ×王妃"陛下" ○王妃"殿下" 陛下は国を直接治める王につける最高位の敬称であり、その配偶者である王妃を陛下とは呼びません。女王であるならば女王陛下という敬称になります。 [一言] …
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