150 技術確立までの道(前編)
本日は投稿が遅くなって、申し訳ありません。
いつも拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
今後の投稿ペースですが、一応の予定として『月曜日・水曜日・金曜日』の更新としたいと考えております。
曜日や更新ペースについては、皆様の反応や私の都合などで変更するかもしれません。
公開はいつも通りの午前04:00時です。
朝の通勤・通学の時間のお暇つぶしに間に合うようにするのは変わりません。
今後もよろしく、おつきあいくださいませ。
アンドレアやアレクの事など、子供たちの養育についても考えるべきことは多いのだが、ヴィナロス王国を取り巻く状況とそれに伴う仕事の方が押し詰まっている。
あれこれと進言した手前、じゃあ後は任せるね、というわけにもいかない。
宮廷魔術師長として受け持つことにした分はこなさねばならないのだ。
主なところは製品と、それを作るための機械などの技術開発である。
もちろん単独では限界があるので、農業大臣のフレーヤス卿に協力してもらって必要な人材をかき集めた。
アスファルトだが、これは調べるとすぐに見つかった。
ヴィナロス王国の地層は石油を含んでいるらしく、所々で石油が湧いていたのだ。それが自然に揮発して重いアスファルト質だけが溜まった池が存在していた。
これまでは火を点けるときの着火剤にしたり、夜の明かり・防水剤・船底の防腐剤などに地元で使われる程度で、ほとんど用途が無かったために認識が遅れたらしい。
本当は原油から熱と減圧で精製したアスファルトを使いたいが、それだけの工場設備を作る時間と技術の余裕がない。
財務大臣のヴェッドン卿に聞かねばならないが、財務的にも厳しいのではないだろうか?首を縦にふるとは思えないので、ここは我慢して天然アスファルトを利用する。
だが、採集した天然アスファルトを加熱して粘性を下げてゴミや水分、残った揮発成分を飛ばす工程でつまづいた。
臭いはキツイし、有害な物質を含むのを予備実験をするまで忘れていた。慌てて浄化のための設備を合わせて作成した。
ここら辺は魔法があるから、無理矢理なんとかやってのける。
(便利な力だが、検証が難しいのがなんとも。ちゃんと浄化しきれているようだが。)
ネズミ──現実地球で実験に使われている『マウス』じゃなくて、本当にそこらへんにいるネズミだ──での実験では、浄化前と浄化後で違いが有意に見られたので効果があったと結論づけて先に進めた。
その後、骨材をふるいにかけて大きさを揃える・加熱して乾燥させる・混ぜるための大型のミキサーの設計・アスファルトの溶融温度を下げて扱いやすくする各種の薬品の開発など、いろいろなことを同時並行で進めていった。
実はこれに、ケイトの下で錬金術を学んでいた学生たちが役に立った。
もちろんケイト自身はヴィナロスには来ていないのだが、彼女の弟子たちの多くはこちらに来たのだ。彼らはその錬金術の知識と技能で、予想以上に早く技術開発を進めて見せたのは驚いた。
「ここまでトントン拍子で進むとは思わなかったな。素晴らしい成果だ。」
「ケイト教授の指導で、合金を作って性質を調べるのを何度も繰り返してきましたが、それが活きました。」
「君たちが使っていた溶融炉の構造と魔術式も大いに参考になった。感謝しているよ。」
「いつも使っているものなので僕らには珍しくなかったんですけど、お役に立てて良かったです。」
謙遜している彼らだが、その顔に疲労はあるものの明るい。
金属とアスファルトの違いはもちろんあるが、混ぜればどう性質が変化するのか、混ぜたらどうなるのか、錬金術師たちは普段からそうしたことを続けているので経験が役立ったようだ。
それに彼らが使っていた溶融炉は、アスファルトと骨材などを混ぜる時に使うミキサーの設計の参考になった。
熱を外部に逃さず、内部を加熱する。もちろん金属ではないから、1000度を超えるような温度にはならないが、それでもも余裕を見て400度ぐらいまでは耐えてもらわないといけない。
さらに動かさねばならないのだ。
素材の投入や製品の取り出しも簡単にできるようでないといけない。
もちろん、必要なのはアスファルトの精製施設、素材を混ぜてアスファルトコンクリートにするミキサーだけではなく、転圧の機械や製品を冷まさずに運ぶ運送手段も必要だ。
実用化レベルに達して、陛下の御前でこの世界初のアスファルト舗装がなされたのは、およそ1年後のことになる。
アスファルト舗装だけではない。
今の馬車の車輪は鉄板で補強した木の車輪なので、アスファルト舗装ではたちまち轍だらけになってしまう。
ゴムタイヤとセットで開発しないとダメなのである。
したがって、私はゴムの大量生産についても注力していた。
しかし、こちらはアスファルトと違ってヴィナロス王国内での自給ができない。
石油が採れるなら合成ゴムができるだろうと、現代の現実地球であれば言えるのだが、アスファルトの件でそうであったように、石油コンビナートを建設するだけの技術力はまだ無い。
合成ゴムの生成は、夢のまた夢の段階なのだ。
なんとかして天然ゴムを大量に確保しなくてはいけない。
産業大臣のガロベット卿と外務大臣のゴルデス卿、そして私の三人で、天然ゴムの事で集まっていた。
「アーディアス卿、なんとか見つかりはしたのですがね…。」
ガロベット卿の手にはテニスボール大の薄茶色の塊がある。天然ゴムの塊だ。
「問題は、産地が遠いのですよ。」
「どこでしょうか?」
「南の大陸の奥地に広がる『大樹洋』です。」
大樹洋、そこはアル・ハイアイン王国の砂漠地帯とその先を隔てる山脈を越えた先にある、広大な密林だ。
獣人種のひとつ、マズルがあって全身毛に覆われている直立歩行する動物タイプのラゴールが支配する地域でもある。
ラゴールを分かりやすく説明すると、二足歩行タイプの一番オーソドックスなケモノだ。
さすがにあまりに遠いので、ヴィナロス王国とは直接の交流は無い。
「アル・ハイアイン王国を介して輸入するよりほかありませんな。」
「ですね。」
「問題は対価の支払いです。どうするおつもりで?」
「買うのも良いんですが、ひとつ提案が。」
私はゴルデス卿に寄る。
「いっその事、アスファルト舗装とゴムと軸受けを使った改良車輪の技術を、アル・ハイアイン王国限定で無償提供するのです。」
「なんと、貴卿は国家の公金の多くを使った技術を──」
そこまでで、ゴルデス卿は言葉を切った。そして、一瞬天井を見上げて、言い直す。
「ははぁ。いや、これは有りですな。」
「なるほど、さすがアーディアス卿。上手いことを考えなさる。」
アル・ハイアイン王国と、そこに通じる南街道は穀物輸入の大動脈。
改良された車輪やアスファルト舗装された街道の快適さと効率の良さは、たちまち商人たちの情報ネットワークに乗って世界にすぐ伝わる。
アル・ハイアイン王国にとってプラスになり、かつ外交上のカードのひとつとなる。そしてその評判はすぐに伝わり、注文が殺到するだろう。
「今後の堰建設、それにゴムの輸入にあたっての交渉に使えますな。」
「新しい産業として成立しそうですし、これは儲かりますぞ!」
魔法素材屋を介して天然ゴムは買えるだけ買っておいたので、炭素を加えての強化や硫黄を加えて固さを調節する加硫という工程の研究などは、すでに進めている。
タイヤのプロトタイプ、と言ってもゴムチューブ程度だが作成済みである。
もちろん、まだ実用化には遠いレベルの品質だが、これも外交交渉のカードにできるぐらい洗練させねばならない。
「ガロベット卿、申し訳ないのですが予備費より少し資金援助していただきたい。」
「もちろん、よろしいですぞ。良いものを作ってくだされ。」
「交渉に使うならば、やはり目立つのが良い。アル・ハイアインで人目を引く方法を考えて考えてください。」
「もちろんですとも。」
天然ゴムの供給に目星が付いたところで、私たちはさらに膝を詰めた。
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