148 娘の闇堕ち阻止計画0.2
いつも拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
今後の投稿ペースですが、一応の予定として『月曜日・水曜日・金曜日』の更新としたいと考えております。
曜日や更新ペースについては、皆様の反応や私の都合などで変更するかもしれません。
公開はいつも通りの午前04:00時です。
朝の通勤・通学の時間のお暇つぶしに間に合うようにするのは変わりません。
今後もよろしく、おつきあいくださいませ。
『白薔薇の聖女』となるはずの女の赤ん坊、ルミリア・ピヴォイネス。
彼女の魔術属性は『光・風・水』だ。ある意味、娘のアンドレアと対になるような属性の持ち主である。
(タッグを組んだら強そうだな。)
私はアンドレアの顔を見ながら、あやしていた。
こうして抱いてみると竜の狩場に行く前よりも体重が増しているのを感じる。
(うんうん。ちゃんと大きくなっているな。このまま闇堕ちなんかしないで、まっすぐに育ってくれよ。)
娘の顔を見ると、アンドレアはあーとか、うーとかの喃語を発し、時に笑うようになった。我が子の成長が嬉しいのは息子でも娘でも同じだな。
だが、娘の成長を喜んでばかりではいられない。
なにせ『大聖女の生まれ変わりだ!』と呼ばれている『善』属性の赤ん坊が見つかったことにより、ルミリアを聖女候補として大聖都に送ってルカ王子との接触を断つ計画は白紙に戻さざるを得なくなったのだ。
これは『実家もろとも断罪されて没落ルート』となる可能性が残ることを意味している。
ただ、これには腑に落ちない点がある。
アンドレアの実家、すなわちアーディアス公爵家のおこなった悪事ってなんだ?
少なくとも金銭面での不正は働いていない。
妻のマリアと執事のマイケルに頼んで、公爵家の会計帳簿のチェックをしたが、おかしなところは無い。
領民に苛政を敷いたりなどもしていない。
むしろ、積極的にインフラ整備と福祉厚生に力を入れているつもりだ。
当たり前だが非合法な物品の取引や製造などしていないし、もちろん窃盗や公金の横領なども働いていない。
さっぱり分からないのである。
前世の記憶を取り戻して以来、破滅のエンドを避けるために、私はできることは全部している。
賄賂の類は受け取っていないし、職員の綱紀粛正にも務めた。
人事制度を見直し、働きやすく、風通しの良い職場環境づくりに努めた。
完璧では無いかもしれないが、改善できるところは改善していったつもりだ。
私がやった改善の諸政策を気に食わない者がいるかもしれないが──制度の隙を利用してうまい汁を吸い、賄賂を受け取って便宜を図り、人事に毒を垂らして我が意のままに操り、威張り散らしたり恫喝して職場の雰囲気を悪く、意見も言いづらい環境なのを好む奴──など、どこででも鼻つまみ者ではなかろうか?
そんな奴など、どこか遠くに行って欲しい。そして一生会いたく無い。
私のやっている事は性格や素行の悪い者に舌打ちされる事はあっても、大多数の人々からは支持されるはずだ。
貴族間の足の引っ張り合いは無いとは言わないが、ヴィナロス王国では目立たない。
理由は人間同士で争っていられるほどヴィナロス王国は悠長な土地では無いからだ。
状況が押してきたので、いくつもの提案をまとめて出してしまったが、本来は自分が表に立たないようにするつもりだった。
それでも、私の提案の内容は『悪事』からはほど遠い。
強いて私がしようと思っていた悪事らしい事と言えば、ルミリアを大聖都に送ってルカ王子との接触を断つ計画ぐらいである。
これだって、今回の事態で実行に移す前に潰えてしまった。
つまり、アーディアス公爵家がおこなう悪事というのがなんなのか、見当もつかないのだ。
冤罪を被せられる…という線も無くもないが、今の状況でそれは考えにくい。
もしあれば、それはヤー=ハーン王国による離間の計だろうと容易に想定できる。
悪魔ザカトナールは陰謀の類が得意らしいが、ならばなおのこと、こんなすぐにバレるような策は打つまい。
ルミリアがどんな女性に育つのか分からないが、ゲーム内では清楚で品行方正な正義感ある女性だった。
アンドレア憎しで陥れるような性格には描かれていないし、そもそも彼女の出身階級から、そうしたことが可能になる人脈を持っているとは考えにくい。
彼女の一家は小さな街角の商店なのである。
分からない事はこれ以上考えてもしょうがない。
『アーディアス家の悪事』問題については、自身も含めて、一層襟を正して行動するより他あるまい。
冤罪をかけられぬように味方を増やし、情報を収集にも力を入れよう。
問題は、娘のアンドレアの闇堕ち阻止計画の三大方針のこれからだ。
1.娘が善良な人物になるよう教育する
2.娘を第一王子・ルカ以外の人物と婚約させる
3.ルカと聖女ルミリアが出会わないようにする
1はこれから。
2は極力回避。
3は潰えた。
1の結果、アンドレアが善良な一人の女性として成長すれば、少なくとも本人から進んで闇堕ちするという道は無くなるだろう。
現在、そのための手法確立のために最大限の努力中だ。こればかりは親の努力だけではどうにもならないのだが。
2をどうするか。
アントニオからの提案をあまり頑なに断ると、裏に何か意図があると勘ぐられてしまうだろう。
仮にも王太子である彼から望まれれば、うまく断るのは難しい。
3の策がうまくいっていれば受けても良かったが、それができなくなった以上はなかなか厳しい。
ここは下手を打つと、王家との関係がまずくなる可能性があるので悩みが深い。
3はもうできなくなった。
できる可能性はゼロではないかもしれないが、限りなくゼロに近いぐらい可能性が低い。
ルミリアが自ら大聖都に行くとか、王立学園以外の学校に進んだりする可能性は無くもないが、それを期待するのはあまりに楽観が過ぎる。
私は娘の顔を見ながら、う〜んう〜んと悩んでいた。
その顔が百面相になっていたのだろうか、アンドレアは嬉しそうな声を上げる。
「そーかそうか、お父さんの顔が面白かったか〜。」
娘の笑顔を見ていて、私の脳裏に閃きが走った。
「…そうだ。ならば、味方にしてしまえば良い。」
ルミリアとアンドレアに仲良くなってもらう、と言うのはどうだろうか?
もちろん、アンドレアとルミリアが仲良くなってくれるかどうかが心配だが、たとえ失敗したとしても後のリスク管理がより容易だ。
たとえ発覚したとしても、ルミリアをどこかに遠ざけてしまおうと策謀を巡らせるよりも世間体も良い。
1.娘が善良な人物になるよう教育する
2.娘を第一王子・ルカ以外の人物と婚約させる
3.娘と聖女ルミリアをお友達にする
3を新目標に更新である。
やはり、人間他人の足を引っ張るような真似をするよりも、前向きな方向を考える方が良い。
「よし!これでいこう。ありがとうアンドレア、我が娘よ。君のおかげで良いアイデアが閃いたぞ!」
私は娘に頬ずりして、額にキスをした。
だが、それがどうもあまり気持ち良くなかったのか、泣かれてしまった。
私はちょっと悲しかった。
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