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147 聖女の発見

いつも拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

今後の投稿ペースですが、一応の予定として『月曜日・水曜日・金曜日』の更新としたいと考えております。

曜日や更新ペースについては、皆様の反応や私の都合などで変更するかもしれません。

公開はいつも通りの午前04:00時です。

朝の通勤・通学の時間のお暇つぶしに間に合うようにするのは変わりません。

今後もよろしく、おつきあいくださいませ。

 私は執務室の窓から遠くの空に視線を向けていた。

 秘書官が淹れてくれたお茶はとうに冷めている。


「思うようにはいかないものだな…。」


 力なく愚痴る私の視線の先を数羽のスズメが横切っていった。




 時間を半日ほど前に遡る。

 ちょっとした打ち合わせの後、私は秘書官から耳打ちを受けた。

 内々に張り巡らせていた情報網に『光属性の赤子発見』の報がかかったのだ。帰国してから10日目のことだった。


「例の娘が見つかった(よし)です。」

「その話は本当か?」

「はい。情報収集に当たらせていた調査官から連絡がありました。」


 私は秘書官からひったくるようにしてメモを受け取る。

 メモによると、それは王都の下町にある小さな神殿でのことだ。

 光属性の少女が見つかり、両親も祝福式をした神官も驚いたとのこと。

 名はルミリア・ピヴォイネス。

 大きくもなければ小さくもない、ごくふつうの商店を営む一家の娘だ。

 上に兄が二人。末の娘ということでたいそう可愛がっているそうで、それが祝福式で世にも稀な魔術属性の持ち主とわかって驚いているそうだ。

 そして、この赤ん坊が将来【白薔薇の聖女】となるわけだ。


(…シナリオの強制力が存在するのならば。)


 この世界がゲームと同じ世界なのか、よく似ているだけ(・・・・・・・・)の世界なのかは判明していない。

 そのため、はっきりとシナリオの強制力と断言できる事象は無い。

 強いて言えば、王太子のアントニオがアンドレアとの婚約を進めたいと言ってきた程度だ。

 そうしたこともあり、私はこの世界は恋愛ゲーム【白薔薇の聖女と黒薔薇の魔女】の世界に似ているだけで無関係な世界であり、ゲームの強制力は存在しないのでは?と考え始めている。


 もっともそう判断するにはまだ時間が短く、事例の収集が足りない。

 念のために慎重な行動は今後も必要だし、入念な対策が功を奏しているのかもしれないが検証は難しい。


「よし!そのルミリア嬢を派手に喧伝して、神殿に迎えてもらおう。アインにまず知らせねば。」

「わかりました。ではまず副神殿長殿に連絡を取ります。」


 そうしてアインに報せに行ったのだが、なぜか、向こうはすでにお祭り騒ぎとまでは言わないが、何やら活気づいているではないか。


「おおっ!ダルトン!よく来てくれた!」


 アインは珍しく興奮気味だった。

 ひょっとしてルミリアのことが先に伝わっていたのかな?と思ったのだが、彼の次の発言で私は頭を殴られたようなショックを受けた。


「君のおかげで、大発見だ!」

「な、何が見つかったんだ?」


 困惑する私に、喜色満面のアインが教えてくれた。


「『善』属性の赤ん坊だ!伝説の大聖女様の生まれ変わりだと、大神殿では祝祭のようになっている!」

「…………は?」

「はっはっはっはっは!君ですら呆然とするか!そうだろうな、そうだろうとも!君の進めていた孤児院での祝福式の費用を国で負担する事業での成果だぞ!もっと喜べ!」


 魔術属性『善』。

 かつて、大帝国末期の悪魔との戦争において、勇者と共に悪魔の軍勢と戦った伝説の大聖女がいた。

 その大聖女の魔術属性が『善』というものだったと伝えられている。

 伝説では大聖女はチートなレベルの奇跡術の使い手だったそうだが、なにせ類例が他に知られていないので魔術属性『善』の詳細は不明である。

 神殿では大聖女は聖人として崇敬の対象となっており、誕生日と命日などが聖日とされている。


「いつ、見つかったんだ?」

「ああ、ちょうど2時間ぐらい前かな?大神殿にアンブローズ領から急報が入ってな。この素晴らしい報せだったと言うわけだ!大神殿長が直々に迎えに行くとおっしゃっている。」


 なんと言う、最悪のタイミング!

 ルミリアを大聖都に留学させて王子との縁を断つ計画が、これで吹っ飛んだじゃないか!

 私は内心でほぞを噛んだ。

 だが、それを表に出すわけにはいかない。


「アンブローズ領か…義父(ちち)上にもお祝いの手紙を送らねばな…。」

「おお、そうだぞ!ぜひ辺境候殿に祝辞を差し上げてくれ。これは国を挙げて祝わねばならん!」


 私の笑顔はかなりぎこちないものだったと思うのだが、興奮状態にあるアインは気づかなかったようだった。

 大聖女様の生まれ変わり…か、どうかは知らないが、私の計画にとっては最悪だ。

 娘の闇堕ち阻止計画の重要な部分が、根本から戦略を見直ししなければならない。


「…きっと、陛下もお喜びになるだろうなぁ…。」

「ああ、そうだろうとも!陛下にご報告をして、全面的にご協力していただこう!」


 喜びに沸き立つアインに、私はまだ仕事があるからといって執務室へと戻った。

 そして冒頭のシーンへと続くわけである。


(う〜ん、これは『シナリオの強制力』なんだろうか…?)


 私はぼ〜っと窓の外を見ながら考えた。

 単純に、私の立てていた計画に対する妨害と見なせば、紛れもなくシナリオの強制力が力を発揮した事例に思える。

 しかし、それなら元のシナリオには無かった『善』属性持ちの大聖女の生まれ変わりなどと言う、バランス崩しの要素を持ち込むだろうか?

 それこそ、ゲームの予定通りに進まないと思うのだが。


「…わからんなぁ…。」


 もうこの時点で決定的に『筋書きが決定的で変更不可』という可能性は消えたように思う。

 それなりにルミリアの希少な魔術属性は注目され、王立学園への入学を阻止する手立ては無いだろう。

 私自身が立案した政策でこんな事態になろうとは…。

 国家的には大当たりだし、私の政策への弾みもつくだろうが、私個人からすると策士策に溺れるを地で行く大失敗というより他無い。


「思うようにはいかないものだな…。」


 私はため息をついた。

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