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144 カリキュラムの作成 (上)

いつも拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

今後の投稿ペースですが、一応の予定として『月曜日・水曜日・金曜日』の更新としたいと考えております。

曜日や更新ペースについては、皆様の反応や私の都合などで変更するかもしれません。

公開はいつも通りの午前04:00時です。

朝の通勤・通学の時間のお暇つぶしに間に合うようにするのは変わりません。

今後もよろしく、おつきあいくださいませ。


※今日・明日は連続して投稿します。

「閣下が無事にお戻りになられて、本当に嬉しいです!」


 エレナ・ファインス局長は開口一番、そう言って私の手を取って喜んだ。


「まだ、これといった功績の無い私どもなど、閣下が居なくなったら風前の灯。毎日ご無事を祈っておりました。」

「どうも心配をかけたね。無事に戻ってこれたから、これまでどおり仕事に励んでほしい。」


 私の答えを聞いて、ファインス局長はパッと手を離した。

 そして深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べる。


「ああ!私ったら、お許しも得ずに閣下のお手を取るなど…。ご無礼のほど、どうかご容赦くださいませ。」

「気にしないでいいさ。むしろ、そこまで心配してもらって嬉しいよ。私は良い部下を持った。」


 幼児教育研究機関は私の肝煎りの新設部署である。すでに教育研究(プロジェクト)は始まっており、いくつかの教育実験が始まっている。

 だいたい現代地球のヒトのそれに準じれば良いのだろうとは思う。

 しかし、ナハムのような生物学的にヒトでは無い知的生物も存在するし、魔術属性のような現代地球には無かった要素もある世界なので、完全に同じで良いかの疑問は残る。

 特に魔法関係の教育については、完全に手探りだ。

 教育研究の実験も、倫理規定を制定し、実験計画書の提出と事前審査の制度を入れたことで、いきなり大事故という事態は避けられている。


「積み木は小さい子供達に人気ですわ。普通におもちゃとして売って欲しいという職員がいるくらいです。」

「だろうね。素材や形については、今後も改良を加えてゆこう。」


 積み木は柔らかい木で製作し、角を丸め、子供の口に入らない大きさにして、着色は人体に悪影響のない顔料を用いるなどの安全基準を設けてある程度量産した。

 今は子供たちの反応や教育的効果などを検証している。


「それで、宮殿にも実験設備を設けるという計画でございますが…。」

「実験設備じゃなくて、子供の預かり場所ね。そこでの実験はついでで。」


 特使に出向く前に調節していた『幼児園』の構想が具体化に向けて動き始めていた。

 今のところは託児所に近いものを想定しているが、ゆくゆくは幼稚園のような存在を構想している。

 宮殿は行事などのために余分に部屋を設けているので、ふだんまったく使っていない部屋がたくさんある。

 そうした部屋のひとつを小さい子供を持つ若い官僚たちが早く職場に復帰できるように、また子供の世話で悩まされることがないようにするためだ。


 事前に調べたところでは、使用人や乳母を雇う、近隣の気心の知れた知人や両親に預かってもらう、が多い。

 自宅で使用人や乳母、両親に世話を頼めるならまだしも、知人に預けるのは迎えに行ったりなどが大変なようだ。

 中には子供の世話のために長期の休職をして出世が遅れたり、あるいは退職するケースも見られ、子供関連は人生において重要な問題なのはこの世界でも変わりが無い。

 使用人や乳母、知人に預ける場合は給金や謝礼金も必要だから、経済的負担も軽く無い。

 若い官僚は給料も安いから、宮殿勤めといえども生活は決して安楽というわけでは無いのである。


「小さい子供を持つ若い職員たちには、おおむね好意的に受け止められております。」

「おお、そうか。王室に提出した計画書の返事もそろそろだと思うが、反応は良いようだしな。」

「そこで計画の具体的な部分について、閣下のお示しになった方針を基に計画案をまとめました。」


 ファインス局長は数冊のファイルを私に手渡した。どれもかなり厚く、重い。


「これは読むだけでも時間がかかりそうだな。」

「そう仰ると思ったので、まずはこちらの概略版をご覧ください。」

「用意が良い!」


 そして背もたれの陰から、一冊の薄いファイルを差し出した。

 そこには私の発案と職員たちの研究を基礎として、6つの項目が挙げられている。

 適切な言語/コミュニケーション能力の獲得・個人的/社会的な情緒を養うこと・ごく初歩の数学・世界についての初歩的な知識・身体能力の開発・創造性の発達、だ。


 適切な言語/コミュニケーション能力の獲得、これが重要なのはいうまでも無い。

 幼児が大人のような語彙を駆使する必要は無いが、自分の思考や感情を言語化し、相手の会話を理解し、文字の読み書きについて基礎を身につけてもらう。


 個人的/社会的な情緒を養うことは言うまでもなく重要だ。

 自分について知り、何が幸福かを知り、他者を尊重することなどを知ってもらわなければいけない。こうした部分は大きくなってからでは直し難い。

 私にとって、個人的にはこれが一番関心がある。

 娘のアンドレアの闇堕ちには、ここに何かあったのでは無いかと思うからだ。


 ごく初歩の数学と世界についての初歩的な知識も大切だ。

 高度な数学ではなくて、日常で扱うことの多い数量を理解したり、基本的な図形や単位の概念は身につけてもらうと後が早そうだ。

 この世界の社会のものごとも知っておけば、あとあと役立つだろう。

 この分野は知識詰め込み型にならないように教え方に工夫をする必要があるが、幸い、広範な家庭教師たちへの聞き取り調査により、さまざまな手法が集積されている。

 子供たちの反応を見ながら試してゆく予定だ。


 身体能力の開発は言うまでもなく、健康に育つのには不可欠だ。

 スポーツ選手養成が目的では無いので、普通の体の動かし方など、自分自身の身体的な能力を養ってもらうのが目的だ。


 創造性の発達は大事なところで、いろいろな形での積極性や思考能力を養ってもらう。

 誰がどんな発想に至るかなど、まったく未知なのだから、これはどうかすると一国の社会や経済にも影響するかもしれないものだ。

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