133 金角の黒竜王、過去を語る 〜勇者ウードの台頭〜
その混乱した時代に現れたのが、後に勇者と呼ばれるようになった男・ウードだった。
金角の黒竜王グレンジャルスヴァールが彼の存在を知ったのは、現在のヴィナロス北部にある町ブレビニーの防衛戦だった。
そこは現代でもそうなのだが、湖が広がっているため湖岸に沿って北街道が東側に大きく迂回している。そのため森を挟んで竜の狩場と比較的近い位置にあるのだ。
ブレビニーは街道上の、最も東寄りに位置する。要衝の町として重要なのは今も昔も変わらず、湖まで突き出した城壁とその先の出城がランドスケープになっている。
ウードの正確な出身地は定かでないのだが、最初の活躍はヴィナロス王国の北部地域に集中しているので、大まかにその辺であろうと推測されている。
ブレビニー防衛戦は彼の初期の活躍の中でも、最大の武功であると一般に認識されている。
ブレビニー防衛戦を大まかに説明すると、帝国の圧政に耐えかねたブレビニーとその周辺が独立を宣言。その地域を支配していた帝国の総督はアンデッドの軍団を差し向けてきたため、これに対抗する戦いだった。
かなり厳しい戦いだったそうで、吟遊詩人の詠う勲にあるようなカッコいいものではなかったようだが、勝利してブレビニー防衛に成功した。
この後、ウードは反帝国側の主要な人物として声望を集めてゆくことになる。
金角の黒竜王自身はこの戦いには加わっていない。
だが、東側から竜の狩場に侵入してくるアンデッドの数が急減し、加えて近くの人間の町で大規模な戦闘があり、その勝者の将は仔竜を連れた変わった人間だと聞き及んで興味を引かれたのだった。
ふつう、人間は竜と一緒にいようとは思わない。
竜の側も人間と一緒にいようとは思わない。
その常識を破って一緒にいる人間と竜の両方を見てみたい、なぜ一緒にいるのかと問うてみたいと、金角の黒竜王は思った。
この過程で例の仔竜であるヴォッフナフェールハーメンの身元が分かったりして、竜側と反帝国側が接近し、ゆくゆくは合流するきっかけとなる。
『そのアンデッドの大軍の背後にいたのが、腐れ悪魔のザカトナールよ。』
「その頃には地上に顕れていたのですか?」
『そうだ。最初は例の総督自身が奴だと思っていたが、実はその下で働く下僕に憑いておった。』
私の質問に金角の黒竜王が答えた。
『ザカトナール自身は決して表には出てこん。責任ある立場にも就かん。その周辺にひそみ隠れて、陰から策謀を巡らせ周りを腐らせてゆく。なんとも卑劣な輩よ。隠れる場所を無くし、表に引っ張り出さねばならん。』
ウードたちの仲間は次第に多くなり軍勢と言えるほどの規模となって、幾度となく帝国側の軍勢を打ち破り、また総督すら何人も討ちとった。
反帝国勢力の士気は大いに上がる一方で、ウードたちはアンデッドや魔獣の数が思うように減らないことに疑問を抱き、潜入調査をした上で真相が明らかになったのだという。
『奴らは常に陰湿で、謀を好み、人間同士が相争い堕落するのを無上の喜びとする。中でも、あの腐れ悪魔はその傾向が特に強い。積極的に人心の腐敗と堕落に手を貸す。そして、陰からそれを覗き見ては悦に入るのだ。』
金角の黒竜王の話は“念話”であるにも関わらず、そこには隠しようのない嫌悪感が含まれていた。心なしか、苦虫を噛み潰したような渋面になっているような気がする。
ザカトナールの手口は次のようなものだと言う。
まず困難を抱えた人物に擦り寄り良い解決手段を示す。それをうまくやってのけて、数度繰り返してしだいに依存させてゆく。
しばしば、その困難自体がザカトナール自身やその崇拝者による策謀だったりするので、マッチポンプもいいところらしい。そのほかにデマを流して世論を歪めもする。
そうして少しずつ外部との接触を絶たせて孤立させ、ますます依存させるようにしてゆく。
そして、最終的にはザカトナールの言いなりになってしまう。
『最初から断られるのが目に見えている無茶なことを友人や知人に持ちかけさせて、誰にも相手してもらえず打ちひしがれて戻って来たところに“ほら、相手してくれるのはワシだけだっただろう?”と囁いたりするのだ。』
奴のやっている事、完全に現代地球での、怪しい自己啓発セミナーとかカルト宗教とかの洗脳手段そのままである。違うといえば、あちらは人間がやっていて、こちらでは本物の悪魔ががやっている事だろうか。
悪魔崇拝とか、やばそうに思えても一度ハマってしまったら抜け出せないのだろう。そんなところもカルト宗教に似ているのだった。
ああ言う連中って、世界が違ってもやることは共通なんだな…と、私は天を仰いだ。
「最終的にザカトナールは敗北したわけですが、勇者ウードは一体どうやったのですか?」
私にとって、と言うか我が国にとって大事なところは、そこだ。
『まずザカトナールの居場所を明らかにし、そして取り巻きどもと奴の支配下のアンデッドを我ら竜が残らず始末した。それから憑依していた人物ごと勇者がザカトナールを討ち取った。力技ではあったな。』
あの時はほかにも大公級の悪魔が何体も顕れていたので、周辺に大きな被害が出ることを承知した上での選択だったと言う。
『そうで無ければ、あの世代で悪魔どもを討滅できんかったであろうよ。ザカトナールだけであれば、あの時とは違って、もう少し穏便な手立てが取れるやもしれぬ。』
残念ながら、勇者のとった手段はあまり参考にならなそうだ。
だが戦術上の参考にはなるかもしれないので、当時の布陣や戦況の経過などを詳しく話してもらったのだった。
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