131 金角の黒竜王との会談
前日に引き続き、宣伝なのですが、skeb様にアカウントを開設、小説の依頼を受けられるようにいたしました。
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もしよろしければ、リクエストをよろしくお願い申し上げます。
お受けできるリクエストの内容についてはTwitterアカウント 衆道恋路 慶 2nd. @Nil_Empty_000 にて記述しております。
「どうしてくれよう?全土を灰燼にしてやろうか…。」
案の定、金角の黒竜王グレンジャルスヴァールは物騒なことを言い出した。
言ってるだけではなく、それを成し遂げられる能力があるだけにシャレにならない。これはまずい。非常にまずい。
「恐れながら、金角の黒竜王よ。どうか寛大な御心で意見具申することをお許しください。」
私は平伏して上申する。
「申せ。」
「ありがとうございます。」
私は短い間に考えをまとめる。この瞬間に、私の思考は金角の黒竜王に知られているのだろうが、やはり言語化するプロセスが人間には必要だ。
「金角の黒竜王の御心のままになさいますと、あまりにも多くの命が失われます。それは少なからず人間の社会に動揺を与え、ゆくゆくはその矢面に我が国が立つことにもなりかねません。」
「貴様は我に手控えよと申すか。」
「いえ、違います。」
金角の黒竜王はこめかみに青筋を浮かべたようにも思えるが、言葉を選びながら説得にかかる。
「御身であれば、ヤー=ハーン王国のことごとくを焼き払い、死の大公の謀をくじくのはいとも容易いことでありましょう。しかしながら、それを成せば竜と人間との対立という結果を招きます。」
私は一度ここで言葉を切り、様子を伺う。まだ話を聞いてくれるようなので、私は続きを話した。
「ヴィナロス王国は盟約に従い竜と共に戦いましょう。しかしそれは、人間の社会を二つに裂き、それが双方に不幸な事態を招くことは確実かと思われます。あるいは、死の大公ザカトナールはそこまで見越して布石を打っているやもしれません。」
「ふむ、ありえぬ話では無いな。」
金角の黒竜王は、まだ私の提案に興味を持って聞いてくれている。
「今しばし、御猶予を。かの国の王、スカール一世は今年の秋に即位30周年を記念する式典をおこなう予定でございます。おそらくは、そこで世継ぎの即位を発表し、スカール一世自身は退位する旨を発表するのでは無いか、というのが我々の見立てでございます。」
それまで、あと3ヶ月ほど。情勢はどう動くかはまだわからない。
「我々はそれまでは警戒しながらも様子を見て、表立って事を荒立たせるのは避ける方針にございます。また、ヴィナロス王国の外務大臣もそのために情報収集をおこない、事態打開の糸口を探しております。それまでご辛抱いただけませんか?」
沈黙が空間に落ちる。それは実時間では短かったと思うが、私には長く感じられた。
「その話に乗ってやろう。」
金角の黒竜王はそう答えた。
「ご配慮、誠にありがとうございます。」
私はその言質をさらに確固たるものにするべく、畳み掛ける。
「敵が悪魔であれば全人類の敵でございます。黒幕が死の大公ザカトナールであれば、神殿をはじめ他の国々からの助力も期待できます。そうなれば、もはや竜と人間との対立という自体はあり得ません。その証拠を押さえたいとも考えております。これを成すためにも、御猶予を与えていただきたく。」
「神殿か…。露払い程度にはなるか。」
金角の黒竜王はふんと鼻を鳴らした。
「ひとつ忠告してやろう。そなたらは新王が即位すれば改まると思っておるようだが、あのように人心が性根まで腐り果て、荒廃の極みに達すると、国を立て直すのは至難であるぞ。」
「そ…それは…。」
「もし後継者まで腐り果てておれば改まるも何も無い。ひとつ残らず焼き払ってしまうのが一番後腐れが無いのだ。」
金角の黒竜王は冷え切った視線を遠くに向けて語る。
「それでもなお、貴様らは一縷の望みを持って慈悲をかけるか。いや…これは勇者ウードとの語らいで解の得られている事。それは人間の弱さであり、強さでもあるな。」
私は言葉が無かった。
金角の黒竜王とヴィナロス王国の建国王である勇者ウードとの間で、かつてどんな会話があったのだろうか?
「よかろう。ヴィナロスの者どもの様子見に付き合ってやる。ただし、そちらで掴んだ情報は我にも細大漏らさず伝えよ。」
「かしこまりました!必ずや、そのように。」
私は再び平伏して答える。
どうやって連絡手段を確保するか?それは今後の課題だが、持ち帰って検討しよう。あまり時間をかけられないが…。
そこで私は再び意識が遠のいた。
「おっ…と。」
私は唐突に意識を取り戻した。体がよろめいたところを、秘書官とディオンが駆け寄ってきて支える。
「これは、お見苦しいところをお見せしました。」
周囲は先ほどの白い部屋ではなく、巨大な魔晶石とその間に散らばる金の天然結晶の幻想的な光がきらめく水晶宮の大広間だ。
もちろん目の前には、艶やかな漆黒の鱗と王冠を思わせる金色の角を持った巨大な竜がいる。
『よい。話は覚えているな?』
例の“念話”で、金角の黒竜王グレンジャルスヴァールが問いただしてきた。
「もちろんでございます。」
ラブリット二等書記官は何を言っているのか解せないっといった顔を見せていた。
「盟約に従い、ご助力いただけるとのこと。派遣される竜たちについては、こちらの配下としてよいこと。派遣していただける竜の数ならびに時期・期間・地位などについては、ガンゲス公爵との話し合いで決定すること。」
私は彼女を制して、取り交わされた内容を復唱した。
「しばらくはヤー=ハーン王国の様子を観察するに留めること。ヤー=ハーン王国に関する情報を共有すること。以上の点について、あなた様と合意し、確認いたしました。」
『そうだ。間違っても失望させてくれるなよ。』
金角の黒竜王の目がわずかに細められたように思えた。
ヴェリ・ガンゲス卿は私の方に視線を向けてから、金角の黒竜王に呼びかけた。
「金角の黒竜王よ、我らが友人たちはよき贈り物を持ってきてくれておりますぞ。スーラウアの枝が100束、肥えた牛を50頭です。」
そう言って、あらかじめ渡してあった目録を広げて見せた。そして贈答の儀礼用に用意したスーラウアの枝の束を、荷運び役の者たちが安置する。
私はその間、少し後ろに下がっていた。
「閣下、いったい何があったのです?」
ラブリット二等書記官に小さな声で質問された。
「とんでもない超高等魔術を経験させられたんだ。ああ、金角の黒竜王とはきちんと話したよ。」
私の答えに、彼女は目を驚きにみはる。
「それが先ほどの“合意内容”ですか?」
「そう。及第点はもらえるかな?」
「必要な内容はすべてクリアされています。問題ないかと。」
私の特使としての使命は、とりあえず無事に果たせたようだ。
あとは文書化と、最終的な合意の確認だけだ。運用についてはガンゲス卿と話すばかりでなく、軍や外務省とも協議が必要になるだろうが、それは実務者に任せよう。もう、政治的な決定権を持つ者同士での話は終わりだ。




