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129 金角の黒竜王グレンジャルスヴァール

明日、一日だけお休みをいただきます。悪しからずご了解くださいませ。

次話投稿は月曜日の11日4:00時に投稿の予定です。

 先ほど通過した竜の泉のある空間と同じぐらいの大きさの、魔晶石の超巨大結晶の柱に囲まれたドーム状の荘厳な空間。それはゴシック建築の教会のような雰囲気を醸し出していた。

 内部は結晶を通して外光が入るのか、あるいは魔術的な明かりなのか、十分に明るい。

 光は周辺の超巨大結晶の内部から発し、あるいは反射して、結晶内部や結晶に纏うようにして付いている金の天然結晶とともに輝いて、いかなる建築の巨匠もなし得ないような繊細で、かつ奇抜で、あるいは整然とした、表現しがたい美を現していた。

 この場の環境霊素(エーテル)は信じがたいほど濃いのだろう。霊素(エーテル)計など見なくても、私の肌は物理的な圧力を感じる。その感覚は、まるで水中深く潜って肌に水圧を感じるようだ。

 この壮麗な空間の中央に小高くなった部分がある。

 それは膨大な量の貴金属と宝石・魔晶石の山だった。金や白金(プラチナ)・銀は言うに及ばず、聖銀(ミスリル)不壊鋼(アダマント)などの魔法金属類の結晶塊すら積み上げられているのだった。文字どおりの宝の山だ。

 混じっている宝石の一粒さえ、この場の高い環境霊素(エーテル)と金角の黒竜王の影響を受けて、霊素(エーテル)を高濃度で帯びた魔力の塊になっているに違いない。


 ヴェリ・ガンゲス卿がその前に立つと、彼に呼びかけた。

「グレンジャルスヴァール!金角の黒竜王よ!ご機嫌麗しゅう!今日はかねてよりお知らせしたとおり、遠路はるばると勇者の国から使いの者が来ましたぞ。」

 そして、アンナ公爵夫人に促されて私は前に出ると、金角の黒竜王に呼びかけた。

(ドラゴン)の王にして水晶宮の(あるじ)、我らが主人の先祖、勇者ウードと友誼(ゆうぎ)と盟約を結んだ御方よ!ご機嫌麗しゅう!私はダルトン・アーディアス、かの魔術師イザークの(すえ)なる者。我が主人、勇者ウードの後裔なるガイウス二世陛下の名代として、古の盟約の確認に参りました。」

 金角の黒竜王グレンジャルスヴァールはうっすらと目を開いたまま、身じろぎすらしない。

 だが、その金色の瞳は私を真正面から見つめていた。その視線の圧力は、もはや物理的に棒で突かれているかのような錯覚を覚えるほどだ。


 金角の黒竜王グレンジャルスヴァール。

 その名の通り、鱗は漆黒で、表面は磨き抜かれた鉄鉱石のように黒い。

 しかし、こうして間近で見ると鉄鉱石がそうであるように銀色や金色の粒子のような煌めきを含んでいて、単に墨のように黒いのではなく複雑な色合いを含んだ黒なのだった。

 そして目を引くのはその名のとおり金色の角。

 長い口先のある頭にある長い2対の角の内、2本は後ろに伸びて先端は上に向かっており、もう2本は横から出て途中で曲がって前に伸びている。それ以外にも、中小の角があって、まるで黄金で造られた王冠を戴いているようだった。

 口にはひとつひとつが、稀代の名剣すら易々(やすやす)と噛み砕くであろう怖るべき牙が並んでいるさまが、意外に柔らかそうな口の端から垣間見える。

 背筋に沿って剣のような棘が並ぶ山の様に大きな背中には、巨大な1対の翼が畳まれていた。その後ろには先端が剣のようになった長い尾がとぐろを巻いている。

 私を見る彼の眼は静かで、無感情で、多くの知識と経験からなる深い智慧に満ちているように感じられた。視線は一切の隠し事を許さぬかのように鋭い。

 実際にそうなのだろう。

 この人間の知も力も遥かに及ばない、途方もない存在の視線が魔術的な何かを帯びていないはずが無く、ただ見ているだけであらゆる事を見透かされているように思えた。

 私はこのままひざまづいて、(ぬか)づいて臣従を誓ってしまいそうなぐらいの重圧を感じていた。


(あかし)を見せよ。イザークの(すえ)よ。』

 私の脳裏にキーンと響くように声が再生された。耳で聞いたのでは無く、直接伝えられた“念話”の魔術だ。

 “念話”の魔術は人間同士でも使うが、直接使う場合は普通に話した方が良く、遠くにいる相手と話をする場合は専用の魔法道具を必要とする。そもそも、双方が示し合わせて“念話”を使わないと成立しない。

 それなのに、目の前の(ドラゴン)は当たり前のように“念話”を使ってみせた。

 私の魔術防御などを意にも介さずに、まるで普通に呼びかけるようにだ。それだけで魔術師としては心が折れそうなぐらいに衝撃的で、恐ろしい経験だった。

「は、はい…。」

 私は震える手で家宝の金のメダルを手に取る。

 これは一族の中でも限られた者しか知らないのだが、このメダルにはある仕掛けが施されている。

 私はなんとかメダルを取り落とさないように注意しながら、裏側にある突起を押して、声が震えないように心を強く持って唱えた。

(あかし)を立てるために、一族の父祖(ふそ)を示すために、開け。」

 ピンと、留め金が外れる音がして、メダルの表側が開いて内部を露わにする。中には少しゆがんで、表面がくすんでいる金色の小さなメダルと切れた金の鎖の一部が入っていた。

 これがアーディアス公爵家の初代、勇者の仲間だった魔術師・“知恵者の”イザークの金のペンダントのヘッド部分だった。もともと付与されていた魔術の効果はもう消えている。これは後世に受け継がれた数少ない初代の持ち物のひとつだった。

『本物だな。その傷、その形、あの時のままよ。こちらを見よ。』

 私は指示されるままに、金角の黒竜王グレンジャルスヴァールを見た。


 そして、その瞬間、金角の黒竜王グレンジャルスヴァールの顔が光を発したように感じて、私は我を失った。

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