11 娘の闇堕ち阻止計画0.1.1
実験的に、今日・明日・明後日と三日連続でアップする予定です。
王室礼拝堂は王族専用の神殿だ。これは宮殿内の王族の生活区域内にある。
もちろん宮廷魔術師長といえどもズカズカと踏み込んで良い場所では無いので、そこに至る門の前で警護している近衛騎士に話しかけて、王室礼拝堂に勤める友人を呼んでもらう。
「宮廷魔術師長閣下、いかなるご用件でしょうか?」
「副神殿長のサバティス卿にお尋ねしたいことがあって参った。繋いでもらいたい。」
「承知しました。今しばらく、そちらでお待ちを。」
近衛騎士に近くの待合所に誘導される。
待合所は窓が広く、手入れされた美しい中庭がよく見えた。窓の正面にある小さな噴水のついた水盤で数羽の小鳥が水浴びをしている。平和な光景だ。
連絡が来るまで次の算段を考える。
考えるのは【白薔薇の聖女】である『ルミリア』という名の少女への対策だ。
我が娘アンドレアによる魔女エンドも避けねばならないが、ルミリアによる聖女エンドも娘共々アーディアス公爵家没落イベントが発生するので避けねばならない。
まず居場所を突き止めて、王立学園への入学を阻止しなければ。
彼女を探すのは今のうちに亡き者にしようという訳ではなく、要は第一王子と一生会わなければそれで良いのである。できる限り出会うことが無いように、第一王子と接触する可能性が極力低い場所へと送れば良い。
できれば王立学院じゃなくて国外の学校、例えば聖都の聖神智大学付属校にでも行ってもらえれば、ルミリアは神殿の出世コースに乗れるだろうからお互いに悪く無いはずだ。
幸い、白薔薇の聖女・ルミリアの持つ魔術属性『光』は珍しい。
(居場所ぐらいは探せないものかな?彼女の魔術属性は珍しいから、私の手で探しても不審に思われないだろうけど。)
魔術属性はどうして決まるのかは今だに不明であり、魔術自体に直接関わりがある分野のため研究も盛んだ。私が希少な魔術属性の持ち主を探すのは不思議には見えないはずだが、念のためカモフラージュとして魔術属性に関する論文集とかを執務室の机の上に置いてみたりしている。
きっとルミリアはその筋では話題になるだろうから、光属性の女児について聞き込みをすればどこかで見つかるだろう。発覚と情報の伝播速度を考えると、見つかるのは3ヶ月後ぐらいかな?と大まかに予定を立てる。
現時点での、我が娘アンドレアの闇落ち阻止計画の骨子はこうだ。
1.娘が善良な人物になるよう教育する
2.娘を第一王子以外の人物と婚約させる
3.第一王子と聖女ルミリアが出会わないようにする
これらの策がうまくいけば魔女エンドも聖女エンドも避けられるだろう。
1については準備が整いつつある。教育だけで善導できるのか不明ではあるが…。
2はまだ不明だが、アントニオの性格上いきなり無理強いすることはあるまい。そもそも、そこまでして急ぐ理由や状況では無い。
3はこれからだが、早く手を打った方が有利になるはずだ。
『シナリオの強制力』が存在するならば、これらの策が阻止されるだろうから、これの成否で『シナリオの強制力』の有無も判明する。
さて、今日ここに来た理由は根回しするための準備である。
宮廷魔術師長の私が直接関係ないどころか、国外にある聖都の聖神智大学付属校とかに無関係の人物を押し込むなら協力者が不可欠だ。他人に借りを作るのは好きじゃないが、王都のドドネウス神殿長あたりが良いかと当たりをつけた。
(あのオッサン、なんか生臭坊主っぽいんだが。まあいいか。必要なのはあのオッサンの肩書と権力だ。)
私は割り切ると、ルミリアが見つかるまでにドドネウス神殿長の身辺調査をすることにした。
彼の悪い話を聞いた事はないが、逆に聖職者としての評判以外に良い話を聞いたことも無い。利用するにせよ、何にせよ、手を結んだ後に裏で悪どい事をしているのが発覚、関与を疑われた挙句にうっかり連座とかになったらシャレにならない。
聖女エンドにはアーディアス公爵家が裏で犯罪行為を働いていたと告発されて没落、という要素があるので協力してもらう相手は慎重に選ばねばならない。
外の景色を眺めながら考えていた私の耳に、鎧が擦れる音と数人の足音が聞こえてきた。振り返ると、廊下の向こうから近衛騎士の姿と神官の法服姿が目に入る。
「アーディアス卿、お待たせした。」
副神殿長のサバティス卿が姿を見せた。