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10 宮廷魔術師長の地位と肩書きと便利な国家権力

 我が娘アンドレアの悪堕ち BAD END 阻止のため、私は幼児教育、続く小児教育の確立を目指している。

 我が領内の孤児院など、幼児教育の実験場の確保と同時並行して、そうした幼児や子供への教育経験者の情報収集を進めていた。

 これは執事のマイケルにリスト化させているので、ある程度まとまったところでアポイントメントを取って順に話を聞きに行っている。もう仕事を引退している人ならすぐに会えるが、今も仕事をしている現役の人の場合は勤め先に根回しや説得が必要な場合もあって、遅々として進まなかった。

「うーむ、どうしたものか。」

 私は休憩時間中に聞き取った話を書き留めたメモの内容をまとめたノートを見ていた。ハーブティーの香りが部屋に漂う。今日はカモミールだ。

「仕事のメモじゃ無いんですね。」

「教育のことは私の仕事のうちだぞ。」

 秘書官のツッコミに私は答える。そう、これは決して公私混同では無い。

 宮廷魔術師長なんて暇な役職だろうと思われるかもしれないが、実際にはそれなりに忙しい。魔術がらみの事件や魔法技術開発はもちろんのこと、国の教育行政は私の管轄下である。つまり宮廷魔術師長の仕事は文部大臣と同じ、といえば分かりやすいだろうか。

 したがって、我が娘アンドレアの悪堕ち BAD END 阻止のための幼児・小児教育経験者への聞き取り調査もちゃんと仕事のうちなのだ。

「そうだ。これ、研究事業にしちゃおう。」

 秘書官はまた何か変なこと言い出したと言わんばかりの顔で私を見ているが、知るか。

 経験者への聞き取りが遅々として進まないのであれば、人手を増やせばよかろうなのだ。

「おい、私が幼児・小児教育経験者の経験談を集めているのは知っているな?」

「ええ、まあ。」

 秘書官はペンをクルクルと指で回しながら答えた。

「あれは王立学園入学前の子供の教育の手法を確立したいと思って、事例を集めているところだ。だが手が足らん。」

「なるほど。では人を集めて聞き出してくれば良いのですね。勅令1588ー511を適用しますか?」

「いや、そこまでしなくていい。犯罪の尋問じゃ無いんだから。」

 勅令1588ー511と言うのは『1588年の5月に発布された11番目の勅令』の意味だ。

 内容は、国家で必要とされる情報を知っている人物から強制的に訊き出しても良い、場合によっては拷問も許す、と言う剣呑な内容だ。その性質上、犯罪者への尋問などに適用されている。

「だいたい、それ適用したら無駄に怯えさせるだろう。」

「いえ、閣下は何やら思いつめたような顔をなさっていたので、よほど深刻な事態なのかと。」

 むぅ、そんなに深刻な顔をしていたか…。自覚していなかったな、と反省する。まあ自分と周辺の人々の命がかかっているのだから深刻にならない方がおかしいが。

 しかしコイツ、さらっと恐ろしい法律の適用を進言してきたな。私は秘書官の顔を見つめた。

「おまえ、思ってた以上に容赦ないな?」

「え?職務を円滑に遂行しようと思っただけですよ。だって夕方前には帰りたいですし。」

「ぶっちゃけ過ぎだろう。」

 私は秘書官の、まったく悪びれる様子もなく言ってのける神経に感心した。そこまで言うぐらいなので実際有能なのだが。

「人数は…10人ぐらいで回るか?まず参考になる話を聞き出せそうな人物のリスト作りだな。我が領内の分だけならリストがある。それを参考にして、さしあたっては王都周辺の該当者のリストを作り、順次話を聞いてゆけ。」

「かしこまりました。」

「聞くべき質問はこの用箋(ようせん)にまとめよ。整理が楽だ。」

 私は具体的な指示を出してゆく。そしてこの作業を始めるにあたって作っておいた用箋(ようせん)を秘書官に手渡す。

「おお、これは良いですね!」

「だろう?」

 渡したのはなん事はない、上端に訊き出す質問を書いた用箋(ようせん)である。質問ごとに整頓できるようにすれば、後日に参照したり検討する作業に便利だと考えたわけだ。あとで発言者別でも参照できるように索引を別にまとめるつもりだ。

「話を聞き出す者と、リスト作成・情報整理する班に分けて作業すれば効率良く進むだろう。」

「そうですね。実務にあたる者を集めて参ります。」

「人選は任せる。」

 すぐに秘書官は執務室から出て行った。ズケズケものを言う奴だが、頭の回転が早いので話が早くて助かる。あとやっぱり宮廷魔術師長と言う地位と肩書きは便利だと再認識した。

「フハハハハ!国家権力って便利だな!」

 執務室で高笑いをする私を、隣の部屋の部下たちがなんだなんだと覗き込んでいたようだった。

 これで執事のマイケルも通常業務だけにしてやれるだろう。私も別の作業に当てる時間が増えたわけだ。

 時間が限られているから、効率良く作業を進めるに越したことは無い。

 私は次の手を打つべく、王室礼拝堂に足を向けた。

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