第7話
「あ〜、なんかめんどくなってきたなぁ」
薬草を摘みながら腰を叩く。昔は魔物ばかり斬っていれば金が貰えたから、こんなにも地味な仕事をするのは久しぶりだった。
「いたっ!」とキャシーが横で声を上げる。
「なんだ? 切ったのか?」
キャシーの白くて細い指から、血が流れている。
「大丈夫かよ。しゃあないやつ。手出しな」
キャシーは素直に俺に手を差し出した。水筒の水で傷口を洗い、包帯を細くちぎって巻いてやる。
「そら、こんなもんだろ」
「あら、上手なのね」
「こんくらいはな」
キャシーは石の上に座ったまま、俺を見上げて意外そうに目を瞬かせる。
「ダンは意外と器用よね。料理も上手いし、包帯も綺麗じゃない」
「旅をしてくうちに覚えるさ。それに俺からしたら、文字を読めるお前の方がすごいぜ」
「そっ、か……。でもダンもすごいよ」
頭を撫でてくしゃくしゃと掻き回す。「ちょっと!」とキャシーはきゃんきゃんと怒った。
俺らの後ろにで草を踏む音が聞こえて振り向く。
「あら〜、偶然〜」
昨日ギルドで会った女だ。背後に連れている数人の男女はおそらくパーティメンバーだろう。
「私たちはちょうど討伐任務の後なんだけど、あなた達はそんなことしてたのね〜。大変そう」
「いんや、全然」
俺は女たちの方には顔も向けず、キャシーの髪をすいたり弄ったりしていた。キャシーは俯いて黙りこくっている。
「そういえばあなた達から昨日貰った任務なんだけど、な 不思議な任務でね〜。この街だけじゃ達成できなくて、地方まで行かなきゃいけないみたいなの」
「へぇ、そうか」
淡々と返しながらも、脳内では俺は考えていることがあった。キャシーの耳に触れ離す瞬間、後ろ髪を引かれた。心を鬼にして口を開く。
「その任務、俺も連れて行ってくれないかね」
あら、と嬉しそうに女はいって、キャシーの体は硬直した。涙が、長いまつ毛にせき止められて、瞳の表面を覆っていた。