第6話
次の日目を覚ますと、隣でキャシーが無防備に寝ていた。
長い金髪が顔にかかって擽ったそうで、髪を耳にかけてやる。
「まつげ、なげー」
率直な感想を呟くと、昨日はしゃぎすぎたのか俺の声は少し掠れている。こんなにも穏やかな朝を、久しぶりに迎えた気がした。
*
キャシーの料理の下手さを知ったのは、その朝だった。
旅をしている時は作ってもらっていたから今日は私が、と息巻いて厨房に向かっていったキャシーが、沈んだ表情で部屋に帰ってくる。
「……その、ダン、やっぱり外に食べに行く……?」
「なに、失敗したの?」
「うん、食べられなくは、ないんだけど……」
「まずいのか?」
普段はあんなに強気な癖に、キャシーは泣きそうに目を瞬かせた。
「俺、食えないもんないぜ。腹も壊さないし。何作ったんだ?」
キャシーがおそるおそる背中で隠していた皿を見せる。黒く焦げたふわふわとした何かと、同じく焦げた肉のようなもの。
「もしかしてこれ、サンドイッチ?」
キャシーはぎこちなく無言で頷く。「いいじゃん、食おうぜ。腹に入っちまえば一緒だよ」机がないからベッドに座って、横を叩くと、キャシーは静かに俺の隣に座った。
俺も味覚が鋭い方ではないから、そうそう問題はないだろう。その認識は甘かった。
キャシーの料理を口に含んだ瞬間、甘いやら苦いやら、よくわからない味で口の中がいっぱいになる。一瞬思考がどこかへ飛んだ。キャシーは半泣きで、「無理して食べなくていいんだよ」と言った。
「いや、不味くないぜ、うん。俺は今日キャシーが作ってくれて嬉しかったぜ、ええと、俺も初めは下手だったし、練習すればさ、な、うん」
しどろもどろになりながらなんとか慰めようとすると、泣きそうになっていたのは嘘のように、キャシーは俯いて笑い始めた。
「もう、慰めるの下手だなぁ」
「うっせ。普段こんなこと言わねぇんだからな」
「うん……。わかってるよ、ありがとね」
焦げたサンドイッチの、どこからきているかわからない甘さが口の中に残る。美味くはないけど、嫌いじゃないと芯から感じた。