第5話
金がないから、素泊まりのぼろっちい宿しかとれなかった。前のパーティは金遣いが荒く良い宿しかとったことがなかったから、こんな狭いところには初めて泊まる。
ベッドに座ると埃がたち、キャシーが咳をした。
「ん、あぁ、すまん」
「もー、がさつすぎ。気をつけてよ」
同じようなことが数度続くと、さすがのキャシーも堪忍袋の緒が切れたようだった。肩を震わせて、ベッドに座る俺に飛びかかった。
「こら、気をつけてっていってるでしょ!」
「うぉ、何すんだよ!」
軽い体を受け流して、ベッドに転がすと部屋中が埃で白っぽくなる。キャシーは高い声を上げながら手足をばたつかせ、俺はそれを抑え込むように肩を掴んだ。
「もー、ダン重いよバカ! どいて!」
ぐたぐだと文句を言うのを無視して、キャシーの上に寝っ転がる。おもいって〜、とキャシーが泣き言をいう。
筋肉のない薄い体は柔らかく、思えば数ヶ月ぶりに女の体に触れた気がした。好みじゃなかったはずなのに、不覚にも勃起するかと思った。
嫌いな勇者の顔を思い出して忘れようとする。なんとか収まりそうだ。悶々としていると、キャシーは観念したのか、長くため息をついた。
「こんなことしたの初めて。眠くなってきちゃうね」
そう言って、柔らかい手で俺の頭を撫でる。俺の頭の形を確かめるように後頭部をたどり、耳の後ろの刈り上げた部分に、くすぐるように手を這わせた。
耳に触れ、まるで動物をあやす様に撫でる。なんだか下腹がぞわぞわとして、おい、と顔を上げた。
キャシーは心地よさそうに目をつぶっている。薄い唇から小さく息が漏れていた。
男の前でなんて警戒心のないやつだ。頭に添えられた柔らかい手が心地よくて、俺もつられて目をつぶった。キャシーの横に寝転がり、胸の辺りに顔をつけると、とく、とく、と規則的な心音が聞こえた。