第4話
キャシーが取ろうとした紙を、横から伸びた手がかっさらった。「ちょっと!」と声を張ると、手の主はわざとらしそうに「ひゃ〜、姉ちゃんこわいなぁ」と肩をすくめた。
手の主は、冒険者と思えないほど軽装の、髪の短い女だった。
「あんた達仲良いねぇ。兄妹かなにか?」
「違うわよ。私たちは……」
女はキャシーの言葉をさえぎって、へぇ、と相槌を打った後、値踏みするように俺の方を見る。
「あんた、自分が有名なのは知っている?」
「はぁ?」
「あの坊ちゃん勇者のところ追い出されたんだろ? どうだい。私たちのパーティに来ない?」
「私たちって、あんた一人じゃねぇか」
「あぁ、今はね。宿に帰ったら僧侶が二人、勇者が一人、そんで魔法使いの私。前衛が少ないから、あんたに入ってもらえると嬉しいんだけど」
随分軽装だが、彼女はどうやら魔法使いらしい。キャシーが不安そうに誘われた俺を見る。
「ヤダよ。俺もう大所帯は勘弁」
隣で、小さな体が安堵したのがわかった。
「あら、残念。まぁ来たくなったらいつでもいってよ」
女は俺につかつかと歩み寄って、耳元でなにかの名前を囁いた。
「私たちの宿の名前。待ってるからね」
女が去ってから、キャシーは不安そうに俺を見ていた。
「なに? なにか言いたいことあんの?」
「え、いや……」
「気にすんなって。また依頼は探せばいいだろ」
うん、とキャシーは頷いたが、どこか納得しきれていないように見える。
「依頼じゃなくて……」
「あぁ、パーティの方か、いんだよ。そういうのだるいし。それより依頼探しだろ」
適当に紙をとってキャシーに渡す。
「これとかどうだ?」
「あのねぇ、ここに書いてあるでしょ! これ受けられるの五人以上よ!」
「ん、あ〜。わりぃ、文字読めねぇんだわ」
大きな目が子供のように丸められた。キャシーは申し訳なさそうに目を伏せ謝る。さらに小さくなった体に手を添えて、「良いんだよ」と言うと、自分でも驚くほど優しい声が出た。