第3話
キャシーの旅の目的は、とある楽器を探しているとのことだった。形も種類もわからないものをどうやって探すのだと思いながらも、彼女はどうしてもそれが欲しいらしい。
森を抜け街に着くと、情報を集めるために真っ先にギルドに向かった。
冒険者のほとんどはギルドに入り、個人情報を提供してライセンスを得ている。ギルドの役割は冒険者の管理と仕事の斡旋。タチの悪い冒険者がいた場合は管理員を派遣して指導したり、魔物の討伐や材料収集を依頼した依頼者と冒険者の間を取り持つ。
冒険者の管理については、権力の腐敗の温床となっているためまともに機能していないが、仕事の斡旋についてはまあまあ役に立つ。だから街についた冒険者は大体ギルドに寄るのだが、驚いたことにキャシーはライセンスを持っていないらしい。
「初めて会ったぜ。モグリ冒険者は」
「うるさいわね、登録したくない理由があるの!」
「へぇ、犯罪者とか?」
からかうと、キャシーは怒って背中を強く叩いてくる。小柄でか弱いくせに人を地味に痛い。その手首を掴むと、俺は片方の口角を上げて笑った。
「大丈夫だぜ。どんな身分でも入れるとこ、いくか」
キャシーの手を引いて強引につれてきたのは、裏ギルドだった。どんなものにでも影の側面はある。
個人情報を提供したくない人間や、表には到底出せないような依頼をしたがる依頼者は、裏ギルドを使用する。年齢、身分、ライセンス、なにも問わない代わりに、依頼は命に関わるものが多く、冒険者の治安も悪い。
*
「キャシーが欲しい楽器とやらも何の情報もねぇんだろ。そういうのは割と、こういう裏のルートでわかったりするんだよなぁ。路銀もねぇし、ちょうどいいだろ」
依頼の貼ってある掲示板を物色していると、キャシーは不安そうに俺の袖を引いた。
「ちょっと、ダン。私弱いんだけど、無理、こんな依頼こなせないって」
「問題ねぇって。最悪あんたは街で待ってて、俺一人でいきゃーいいじゃん」
「それはおかしいでしょ!」とキャシーは俺の肩を叩く。
「私たちはパーティなんだからね」と、ぷんぷんと拗ねている。ひとつ気になる依頼があったのか、キャシーが背伸びをして取ろうとする。代わりにとってやるべきなんだろうがその様が面白くて、俺はにやけながら眺めていた。