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第2話

わざとらしく舌打ちしたが、女はひるまない。


「私は……、えーっと、キャシーって呼んで」


白い手が差し出され、握手を求められる。手をはねのけようとすると、キャシーは無理やり俺と握手した。キャシーの手は柔く、剣を握る手ではない。それどころか、家事をやる女の手ですらなかった。


上等な防具や偉そうな態度。こいつはもしや、と予想する。


「いーぜ。一時的なもんだろうけどあんたとパーティ組んでやる。俺はダンフォース。よくダンって呼ばれてた」


キャシーの手を握り返すと、キャシーは「ひゃっ」と声を漏らした。


「どうしたんだよ」

「ちょっとびっくりしただけ!」

「ああ、そ」


その日から、キャシーと俺の旅は始まった。


キャシーは日焼けもしたことのないような白い肌をしていた。宝石を埋め込んだかのような黄金の目は、気が強そうにつり上がっている。


昔のパーティにいた女より、ずっと可愛らしかった。




キャシーはどこかの貴族の娘かなにかだろう。俺の予想を裏付けるように、彼女は体力がなく、休憩をこまめに挟む分旅の進みも遅かった。


俺は勇者のパーティを追放されてから、魔王に挑む気もなかった。あんなん一人で戦う相手じゃねぇ。


幼い頃、一度だけ魔王を見たことがある。俺の生まれた村を襲った魔物の群れに魔王はいて、背が高く細っこい女の姿をしていた。


伝説によると、魔王は自分の姿を好きに変えられるそうだ。だからあの姿は偽物だとは知っていても、美しく、子供ながらについ見惚れたのを覚えている。


キャシーに合わせて休憩しながら、ぼんやりと幼い頃のことを思い出していると、キャシーがぼそりとなにかを言った。


「……ごめんね」

「は、何で謝んの」

「私のせいで旅も遅れちゃって……」


気の強い女なのに珍しい。少し驚きながらも、しゅんと体を縮こめるキャシーの肩に手を置く。


「全然。気にすんなよ。俺が元いたパーティなんて、二日酔いで出発延期することなんてザラだったぜ」

「え? 二日酔い?」


キャシーは目を丸めたあと、口元を隠してくすくすと笑った。ふふ、そんなことあるの、と楽しそうに体を揺らす。


「おう。それに比べたらお前はがんばってるぜ」


また遠慮なく肩を叩く。

プライドの高い女だからてっきり不機嫌になるかと思ったが、キャシーは全く気にしていないようだった。笑いすぎたのか、涙を薄く目に浮かべ、穏やかに微笑む。


「ありがとう、ダン」


こうやって素直にしていれば可愛げもあるんだから、ずっとそうしていればいいのに、と一瞬頭に浮かんだことは口にはしなかった。

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