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第13話

二日三日ほど、簡単な依頼をこなしたり食事にいったりと静かに過ごしていた。寝る直前、いつも穏やかな声で「こういうのが一番幸せだな」とキャシーが言うのに、やけに胸が擽られる気がしてたまらなかった。


キャシーは何事にも懸命で、諦めることを知らなかった。空いた時間で俺から料理を習いたがって、少しずつ見た目も味も良くなっていった。


自分もそうだったと、キャシーのことを見ていると昔の自分を思い出す。俺も初めは不器用で出来ないことばかりで、少しずつ慣れていった。




昼間、二人で買い出しに外を歩いていると、ギルドの受付嬢のフクロウが連絡を寄越しに来た。依頼主が街に着いたのだという。


ギルドに向かうと、そこにあったのは見知った顔だった。


「あぁ、君か」


視界にも入れていないかのように、淡々と無感動に勇者は言った。パーティを追放されてから会うのは初めてで、「なに、知り合いなの?」と隣でキャシーは困ったようにしていた。


「田舎にすごすごと帰るかと思ったけど奥さんができたのかい? 良かったね」

「そんなんじゃねぇって。お前と一緒にすんなよ」


そう言ってから、俺は勇者の近くに僧侶や魔法使いがいないことに気がついた。辺りを見ると、それに気がついたのか勇者が言う。



「あの子たちはいらない。君と一緒さ、無能はいらない」

「あぁそうかよ。どうでもいいけど」


その時怒ったようにキャシーが「ねぇ」と声を上げた。


「いまあなた、ダンのことを無能っていったの? あなたざがダンの昔のパーティメンバー?」

「おや、美しいお嬢さん。どうしたんだい」


勇者は恭しく腰を曲げ、キャシーと視線を合わせる。キャシーは怒ったように厳しく目をつりあげていて、勇者はキャシーに見下ろされた瞬間、何かに驚いたように目を瞬かせた。


「ダンフォース。君、この子をどこで拾った?」

「犬猫みたいに言うなよ。お前らと別れてすぐだけど」


へぇ、と勇者の返事には含みが感じられて、眉を顰める。


「まぁいいや。俺らと上手くやれなかったダンフォースが女の子と二人で旅できるわけないだろ。お前は一人が似合ってるよ」

「面倒いやつ。どーでもいいだろお前に関係ね――」


俺がそう言いきる前に、キャシーが俺を庇うように俺と勇者の間に立った。


「さっきから随分な言い草ね。ダンはあなたにそういうことを言われるような人間じゃないわよ」


キャシーの小さな背中は真っ直ぐに伸びている。


「ダンは乱暴でガサツなところもあるし、無愛想で口も悪いけれど、あなたより優しくて、すごく温かいのよ。私はダンがすき、初めて会った時から、ずっと」


つむじを見下ろしながら、こんな小さな体のどこに、勇者に立ち向かう姿があるのかを不思議に思った。一瞬目の前がちかちかとして、キャシーの高い声が上手く耳に入ってこなかった。




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