第11話
朝になると吹雪は止み、積もった雪にきらきらと日光は反射していた。
「溶けない氷、なぁ 」
山をのぼりながら考えたが、検討もつかない。試しに木についた氷柱を持ち帰ろうと折ってみたが、体温ですぐに溶けてしまった。
キャシーは考え込むようにしばらく黙り込んだあと、「心当たりがあるんだけど、」と口を開いた。
キャシーが言うに、その氷は洞窟の中にあるらしい。
「まぁ、ほかに手がかりもないし行ってみるか」
*
洞窟は薄暗く、ひたひたと水音が響いていた。
ビビっているんじゃないかと思いキャシーの方を見ると意外にもキャシーはけろりとして、洞窟の中を見渡している。
「ありそうなんだけど……見つからないわね」
「どんなやつだ?」
「うーん、ちょうどこんな感じよ」
キャシーは自分の首飾りを外して、装飾を俺に見せる。透明の石が金の縁にはめ込まれている。
「ふうん、こんなんを探せばいいんだな」
「そうね。でもこれは加工されてるから、本当はもっと白く濁ってるのよ」
「よし、何となくわかったぜ」
よかった、とキャシーは微笑んで、「こんな広いんですもん、手分けして探しましょうか」と言った。ドジなキャシーのことが心配だったが、ここで心配してもうっとうしがられるだけかかと思い了承する。
声の良く反響する洞窟だからなにかあったらすぐ呼ぶように言い含めて別行動を始める。洞窟の壁を見つめながら、ぼんやりとキャシーのことを考えていた。
あいつは恐らく貴族かなにかなんだろうが、なぜ一人で旅を――。
「うぉっ!」
足場が濡れていたのに気がつかず足を滑らせ、切り立った崖から落ちかける。とっさに崖の縁を掴むと、声に反応したのかキャシーが遠くで「ダンー?」と呼びかけた。
暗闇の中から、ぼうっと黄色く光る二つの瞳があった。キャシーのものではない。それはゆっくりと俺に近づいてくる。数歩先の距離まで来てようやく、俺はそれが魔物であることに気がついた。
「キャシー! 来んな!」
叫びながら、なんとか崖から上がろうとする。洞窟の反響のせいで聞き取れなかったのか、キャシーの不用心な足音は止まらない。
「馬鹿! 来んなって!」
キャシーの方に気を取られているといつの間に近くに迫っていたのか、金色の鈍く光る瞳が眼前まで迫っていた。魔物は手を振り下ろし、鋭い爪をすんでのところでかわした。
まずい、ちくしょう。崖から上がろうと腕に力を込めた瞬間、高く張りつめた声が、洞窟に響き渡った。
「やめなさい!」
聞いた事のないキャシーの声だった。
魔物は魔法のようにぴたりと止まり、攻撃を中断する。低くうなりながら、鈍い黄金の光はどこかへ遠ざかっていった。
ふと、魔物についての常識を思い出した。魔物の位は目の色でわかる。低位の魔物は茶、中位は緑、高位は黄金。
キャシーが静かに近づいてくる。キャシーの丸い黄金の瞳が、暗闇の中で光っていた。