第10話
それから俺たちは北に向かった。
依頼の内容は、北に向かって溶けない氷を手に入れて欲しいとのこと。
俺がこの依頼に拘ったのは、街の中だけでなく他の地方にまで出向いてまで達成しなければいけないという部分が引っかかったからだ。
依頼の規模が大きくなればなるほど、依頼主の金はかさむ。けれどそれその金を出してまで成し遂げたいことがあるということの裏返しであり、そういう任務には大体多くの謎や宝が絡んでいる。
キャシーの欲しがる楽器についての情報がない以上、そういった怪しい匂いのする任務から地道に探してくしかないのだ。
キャシーは寒そうに体を擦り、腕の間に顔を埋めた。俺はキャシーの肩を叩く。「おい、大丈夫か。やべぇから寝るなよ」
山を乗り越えなければいけなかったが、山中は吹雪き、体の薄いキャシーには辛いだろう。肩を揺すったがキャシーはうとうととし始め、俺はキャシーの背中と膝裏を支えて抱いた。
キャシーの金髪が重量に従って落ち服がズレて、鎖骨に薔薇のような痣があることに気がついた。
「なんだァ?」
初めは汚れかと思い擦ったが、変化はない。キャシーが不快そうに息を漏らしから、素直に謝った。
「バカ、寝るなよ」
キャシーは起きる気配がない。これ以上進むのは危険かと思い辺りを見回すと、都合よく、雨風の凌げそうな小屋があった。
小屋はとっくに使われておらず、埃臭い。自分の外套を脱いでその上にキャシーを横たえさせると、俺はランタンに火をつけた。窓は風でかたかたと揺れ、隙間から冷たい風が吹き込んでくる。
「生きてっか?」とキャシーの顔を覗き込んで尋ねた。
「……ごめん。足でまといだね」
「気にすんなって」
「ダン、寒い……」
甘えるような弱々しい声でキャシーが言う。「さみぃか?」と確認すると、キャシーは小さく頷いた。
「……怒んなよ」
俺は防具と服を脱いで、キャシーの服に手をかけた。服を剥いたあと、全裸でキャシーを抱きしめ、埃っぽい毛布にくるまった。
キャシーの肌はみずみずしく滑らかだった。無駄に熱い俺の体の熱がキャシーにも移っていって、じわじわと布団の中が温かくなった。
「あったかい」とうっとりとキャシーが呟く。
「なぁ、聞いてもいいか」
「ん、どうしたの?」
何も分かっていないように、純粋にキャシーは答える。
「お前さ、」
どこで生まれたの、と尋ねようとして、言葉にならなかった。キャシーの柔らかい小さな唇が、ふに、と俺の唇に触れ、離れる。
「……なん、だよ」
「んー、お礼」
へへ、とキャシーは朗らかに笑って、目をつぶった。