表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/15

2-3

◇◆◇


「おはよう。フェリシア。いい朝だね!」


「……エルランド様?」


 校舎の前、馬車に乗ってやって来たフェリシアの前に顔を出すと、彼女は驚いた顔で僕を見た。


「あの……どうしてこちらに……」


「君を待ってたのさ。一緒に教室まで行こう」


 僕が笑顔で告げると、フェリシアの顔が曇る。


「エルランド様、そんなに気を使っていただかなくても……。昨日も言った通り、私は婚約破棄してもらって構わないのですわよ」


 珍しくおどおどした態度で言うフェリシアは何とも可愛らしい。僕はしゃがんで膝をつき、フェリシアの手を取ってその手にキスをした。


「きゃっ」


 フェリシアが可愛らしい声で悲鳴をあげる。


「あ、あの、エルランド様。どうしたんですか?こんな風に待っていらしたこと今までなかったのに」


 フェリシアはすっかり困惑しているようだ。しかし引くわけにはいかない。彼女との婚約を維持できるかどうかがかかっているのだ。


「昨日君の話を聞いて深く反省したんだ。僕は君に冷淡だったのではないかと……。フェリシア、僕に一度だけチャンスをくれないか。今度は君に寂しい思いをさせない。ちゃんとした婚約者になってみせる」


「え?いえ、エルランド様は冷淡なんかではありませんでしたわ。昨日も言った通りエルランド様は何も悪くなく……、しかしそういう運命なのです」


 健気にもフェリシアは僕が悪いわけではないと言ってくれる。運命のせいだと言ってくれるのは彼女の優しさだろう。しかし、運命なんて言う言葉で片付けられるわけにはいかない。


「フェリシア。もう少しだけ婚約を続けてはくれないか?その間にきっと僕は生まれ変わって、君の満足いくような男になってみせるから」


「エルランド様。本当にあなたに問題があるわけでは……」


 フェリシアは言いかけて口を噤む。それから何かを決意した表情で言った。


「わかりました。婚約破棄は一旦やめておきましょう。でもその代わり、貴方が婚約をやめたくなるようなことがあれば、すぐにおっしゃってください」


 フェリシアの答えに、世界が明るくなったような気がした。


 一旦という言葉は気になるが、一応は婚約破棄を思い留まってくれた。僕から婚約破棄を言い渡すことなんてあり得ないんだから、ひとまずの危機は過ぎ去ったわけだ!


 踊り出したい気分だった。しかしまだ安心するわけにはいかない。フェリシアは今も浮かない顔をしている。


 今後二度とフェリシアが不安にならないように、態度で示さなければならない。僕は決意を新たにした。



──


 フェリシアと一緒に教室に入り、僕はこれからの日々に気合を込めながら始業を待った。しかし、その日は驚くべきことが起こった。


「初めまして。今日から転校してきたクリスティーナ・メランデルです。よろしくお願いします!」


 教壇の前で挨拶する元気な少女。肩までの金色の髪を揺らして笑う姿が愛らしい。もちろんフェリシアの方が数百倍可愛いけれど。


 しかし、クリスティーナだと?フェリシアが言っていたのと同じ名前じゃないか。


 王立学校に転校生が来ることは滅多にない。それを転校生が来ると当てただけでなく、名前まで的中させるなんて……。


 僕はちらりとフェリシアに目をやった。彼女は肩を震わせて、どこか怯えるような目でクリスティーナを見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ