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2-2

──


 その日から、私はエルランド様と常識的な距離を保って接するように気を付け始めた。


 廊下で見かけても飛びつかない。何かと口実をつけて家にお呼びしない。エルランド様が他の女子生徒としゃべっていても威嚇するようにじろじろ見ない。あ、最後のは前世の記憶を思い出すまでもなくアウトなやつだったわ……。


 とにかく私はエルランド様を不快にしないように気を付けていた。


 記憶によれば、ヒロインのクリスティーナが転校してくるのはもうすぐだ。それまでに、何とか……邪魔に思われないくらいには印象を改善しておかないと……。


 そうじゃないと、エルランド様に婚約破棄されてしまう。


 ダンスパーティーの夜、エルランド様がクリスティーナの肩を抱いて私に婚約破棄を言い渡すところを思い浮かべたら、目に涙が滲んできた。




 急に態度を変えた私を不審に思ったのだろう。ある日の放課後、エルランド様は私を空き教室に呼び出した。


「フェリシア、最近様子が変じゃないか?もしかして僕が何か気に障ることをしてしまったのかな」


 優しいエルランド様は申し訳なさそうな顔でそう尋ねてくれる。私は笑顔を作って首を横に振った。


「いえ、エルランド様は何も悪くありませんわ」


 エルランド様は私の答えに眉をひそめる。ああ、困惑した顔のエルランド様も素敵だわ。いや、そうじゃない。そんなことを考えてる場合じゃない。


「じゃあ最近どうして素っ気ないんだ?」


 エルランド様は難しい顔のまま尋ねる。私は今までが異常だったのだ、反省して行動を改めたのだというようなことを答えた。


 納得してもらえるかと思ったのに、エルランド様の表情は不審そうなままだ。少し間を置いて彼は言った。


「反省なんかすることないよ。今まで通りでいいんだ」


 エルランドは真っ直ぐにこちらを見ている。浅はかな態度ばかり取っていた私に、なんて寛大なお方なのだろう。


 ついその優しさに甘えたくなる。しかし、それでは駄目だ。今はまだ許してもらえるかもしれないが、クリスティーナが現れたらあっという間に私なんか見放されてしまう。


 ああ、想像するだけで胸が痛い……。


「フェリシア?」


 エルランド様の訝しむような声が聞こえてくる。


そうだ。これから捨てられるくらいならいっそ……。



「エルランド様。……どうか私との婚約を破棄していただけませんか」


 私は思い切ってそう告げた。


 言葉にしたそばから胸が痛い。婚約破棄なんて本当はしたくない。でも、処刑の時を待つようにエルランド様から婚約破棄を言い渡されるのをじりじり待つよりずっとましだ。


 それにこちらから婚約破棄しても構わないという意思を伝えておけば、エルランド様からうっとうしがられる未来を避けられるかもしれない。


 エルランド様は目を見開いてこちらを見ている。相当驚いているようだ。


 それはそうだろう。今までべたべた執着して来た私が、急に諦めても良いと言い出したのだから。戸惑うのも無理はない。


 慈悲深いエルランド様は、僕が何かしたのだろうか、したなら謝るから考え直して欲しいなんて言ってくれた。礼儀として言っているのだとしてもつい嬉しくなってしまう。


 けれど駄目なのだ。私は悪役令嬢なのだから。



 私はエルランド様に真実を伝えることにした。向こうの世界のことを知らないエルランド様にはいまいち話を理解できないようだったけれど、私の立場と、じきに自分が「クリスティーナ」という少女に恋をすることくらいは伝わったと思う。


 前世の記憶が戻ったからと言ってフェリシア・レーンバリとして生きた記憶がなくなったわけではない。初めて会った時のエルランド様の笑顔を今でも鮮明に思い出せる。でも、ちゃんと言わないといけない。


「それでは、今までありがとうございました!」


 私はそれだけ言うと、エルランド様に背を向けて全速力で駆け出した。


 彼のことは諦めよう。クリスティーナが現れて、本格的に邪険にされるようになる前に身を引くんだ……。



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