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「きゃ……っ!!」
思わず悲鳴をあげ、慌てて口を手で押さえる。しかしもう遅かった。植物は動きを止め、ロックオンしたかのようにこちらを見ている。見ていると言っても植物に目はないけれど、意識がこちらに向いているのがはっきりわかった。
植物はこちらにシュルシュル蔓を伸ばしてきた。
逃げようと思うのに足がすくんで動けない。
あの植物、確か事前授業で習ったな。人食い植物で、あの巨大な蔓を人に巻き付けて捕まえて針を刺し、ゆっくり弱らせてから口の中に入れるとか。すごく危険なやつなんだって。捕まったら痛いかな。痛いだろうな。嫌だな。私殺されるのかな。
蔓がどんどん近づいてくる。逃げ場を塞ぐように蔓は私の回りをぐるりと囲み、その円はだんだん小さくなってくる。
ああ、こんなことならすぐにエルランド様に謝りに行けばよかった。呆れられてもいいから、やっぱり婚約破棄したくないと泣きついてみればよかった。仕方ないなって笑ってくれたかもしれないのに。
「エルランド様……」
気が付くと彼の名前を呼んでいた。クリスティーナさんといるはずの彼を。
「フェリシア!!」
「え?」
突然私を呼ぶ声が聞こえた。聞き間違えようのない大好きな声。
「フェリシア!大丈夫か!!今助けに行くからな!!」
「エルランド様……!」
どうしてここに?なんて尋ねる間もなく、エルランド様は必死の形相でこちらへ駆けてくる。邪魔をするなとでも言うように、植物の蔓がエルランド様に襲い掛かった。彼はそれをかわしながら全速力で私の方へ走り寄る。
「フェリシアを離せ!!」
エルランド様はそう言うと、片手を構えて植物に向かって風魔法を放った。鋭い風が植物の体にピシピシと傷をつける。しかし、すぐに再生してしまう。
「フェリシア、心配するな。絶対に助けるから!」
エルランド様は真剣な声でそう言うと、もう一度風魔法を放った。しかし何度やっても同じように植物は元通りになってしまう。
「大元を倒さなければ駄目なのか……」
エルランド様は蔓を伸ばしている本体を睨みつけた。緑の大きな塊の真ん中に、鋭い歯の生えた大きな口がある。その口は獲物を待つようにパクパク動いていた。
エルランド様は迷わずその口めがけて駆けていく。
「エルランド様!待って!行ってはだめ!!」
あの歯で噛まれたらひとたまりもないはずだ。それなのにエルランド様は怯む様子もなく、蔓をかわしながら真っ直ぐに進んでいく。




