レーチェ、決闘の前に想う
episode 514「あんまん作りの下拵えを」のレーチェ視点の話。
オーディス団長がリゼミラさんとアディーディンクさんを連れて外で話している間に、私とリーファがお二人の子供の相手を玄関前でしていると、三匹の子猫と母猫が巣箱から出て来て、子供達の顔をまじまじと見て──どこか恐る恐るといった風に、彼らに近づいて行く。
「にゃあだ。にゃあが来たよ」
幼いリッカが兄のアドラストスの手を引いて、子猫に触ってもいいかという感じで兄を見、続いてこちらを見る。
「大丈夫ですわ。優しく頭を撫でてあげれば」
子供も子猫も、どちらも恐る恐る近づいて行き、互いがビクビクしながら接近していった。
(猫も子供も、不器用なんですわね)
外では三人の──かつては「金色狼の三勇士」と呼ばれていた人達が話しをしている。
子猫達は伸ばされた子供の手に鼻を近づけ、くんくんと匂いを嗅いでから頭を撫でられていた。
私はというと、オーディス団長との決闘に想いを馳せていた。
あの三勇士の一人。かつてミスランで最も有名だった旅団の、その一番先頭で活躍していた人だ。
片足を失って、それを義足で補って生活している団長。
けれど、あの人がまだまだ現役であるのは疑いようがない。
混沌の巨獣を討伐し、犬亜人との戦争でも最前線で戦い抜いたあの人は、いつまで冒険を離れているつもりなのかしら。そんな風にも思う。
私が勝つにしろ負けるにしろ。
あの人にはもう一度、冒険に戻る機会を感じて欲しい。
あの人の英雄譚を身近に、目の当たりにしたいという気持ちが私の中に沸き上がってくる。
いつかオーディス団長と肩を並べて、冒険に出てみたいものです。
足下に寄って来た子猫を抱き上げ、外ではどんな会話が為されているのかと、聴いてみたいという気持ちを抑えつつ、子供達が楽しそうに猫を撫でているのを見守っていた。
本編も完結しました。
ぜひそちらも読んでいただきたいです。
よろしくお願いします。




