武闘大会⑥
「いよいよ決勝戦だね」
控え室に戻った俺を、今度はリトキスさんが待っていてそう言った。
試合を見ていたのかどうなのか、そのへんを聞こうとも思わなかったので、俺は「はい」とだけ答えて椅子に座る。
疲れは残っていない。
アンクバートの荒っぽい攻撃を躱し続けるのは集中力を必要としたが、攻撃を剣で受け止めた事は一度もなく、腕力を防御に使用しなかった分だけ、筋力も体力も失われた感じはない。
次の闘いは──対戦表からすると、俺の相手は彼になるだろうと予想できた。少なくとも同世代の中で、彼以上の相手など耳にした事はない。
以前の俺は、彼との手合わせで──まったくいいところなく、こてんぱんに叩きのめされた。
技量において負け、戦士としての覚悟で差を見せつけられた。──そんな気がした。
だがあれ以来、俺も自分を鍛えてきた。冒険でも訓練でも、こんなにも一所懸命に取り組んだ事はない。
今ならいい勝負が出来るんじゃないか。そんな風に思う。
決勝戦まで俺は椅子に腰掛けたまま、心象訓練に取り組んだ。
相手の剣技は以前の訓練の時よりも、もっと鋭くなっているに違いない。
だがそれは、俺が訓練で相手にしてきたリトキスさんや、レオシェルドさん。リゼミラさんよりも速く、重い攻撃だろうか?
いいや、そんな事はないはずだ。
いくら彼が才能豊かな戦士であっても、あの人達より強いなんて事はない。
今度の闘いでは必ず、接戦に持ち込んでみせる。
俺だって覚悟をもって冒険に出て、訓練では自分よりも遥かに強い人達を相手にしてきたのだから。
全力で彼に挑むだけだ。
そう決心した時、闘技場の会場から大きな歓声が聞こえてきた。決着がついたのだ。数十分の休憩の後、俺を呼びに事務員の女性がやって来た。
「いきます」
「うん」
リトキスさんとの会話はたったそれだけ。
後は俺と、彼との闘い。
「次の相手は『蒼髪の天女旅団』のレクトさんです」
事務員はそう報告する。
分かっていた。
彼が勝ち上がってくるというのは。
通路を歩き、光の差す闘技場に向かって歩く時間。──緊張を少し感じた。闘技場の砂地に入る前に立ち止まり、軽く飛び跳ねて手足の筋肉を解す。
「よし」
闘技場に進んで行くと、向こうの入り口からレクトがこちらに歩いて来るのが見えた。
審判の待つ中央にまでやって来ると、相手もこちらを見て、にこりと笑う。
「やあ」
「うん」
革鎧を身に着けたレクトの姿。
また一回り大きくなったような気がする。
「お互い、悔いの残らないよう全力で闘おう」
レクトは気負いもなく、平然とそう口にした。
会場の歓声など、彼には聞こえていないみたいに。
「──そうだね。頑張るよ」
拳を突き出してきた彼の拳に、俺の拳を軽く当てる。
観客が拍手と声援を送っている。──背後から、聞き覚えのある声がした。
「「がんばれぇ──! カムイ──ッ!」」
その声はヴィナーとウリスだ。
あいつら来てたのか……
俺はにやっと笑ってしまう。
後方に数歩下がりながら、剣を抜いて構える。
両手でしっかりと柄を握り、強敵と真正面から向かい合う。
レクトも幅広剣を構え、また頷いて見せた。
相手から感じる気迫──それは、こちらの技量を見抜き、簡単には倒せない相手だと感じているからだ。
そしてそれは、こちらも同じだった。──やはふぃ以前よりも手強くなっている。それを感じる。
歓声と拍手の中で内に闘志を秘めて向かい合う俺とレクト。
「はじめっ!」
審判が試合の開始を告げる。
いよいよ決勝戦が始まった。




