武闘大会④
二回戦も勝利した。
今度の相手はまるでリトキスさんのような、片手剣うぃ正確に扱う手練れの女剣士だった。鋭い連続攻撃が危険な剣士。
──けれどこちらは、レオさんやリトキスさんと、何度も訓練を重ねてきたのだ。
その地力の差が出た。
鋭い攻撃を正面から斬り払い、剣を弾き飛ばして相手に「まいった」と言わせた。──そして今回はちゃんと相手の顔も名前も理解した上で、試合後の握手を交わす。
控え室に戻ると、誰も居なかった。
「あれ?」
そう思っていると、ドアの方からリトキスさんが入って来る。
「おつかれ。ちゃんと動けてたね」
どうやら試合を見てくれていたようだ。
「リトキスさんとの闘いに比べれば、鋭い攻撃もそれほど怖く感じませんでしたから」
動きも似てましたからね。そう言うとリトキスさんは「うんうん」と頷く。
「じゃあ次は、例の旅団の彼が相手だね」
そう──黎明の白刃旅団とか言う、無礼な男達の旅団。なんでも若い連中だけで集まって作られた旅団らしいけれど、若いからと先達の冒険者を、引退を余儀なくされた冒険者を馬鹿にする態度を取るなんて、はっきり言ってどちらが馬鹿なのかと言いたい。
自分達よりも先を歩き、冒険に出た回数も遥かに多い先輩を持たない奴らに、俺は負ける訳にはいかない。必ず勝って、奴らの思い上がりを打ち砕いてやる。
俺が気合いを入れていると、リトキスさんは小さく笑う。
「ははっ、そんなに力むもんじゃない。今のカムイなら勝てるよ。相手の腕力は凄そうだから、そこにだけ気をつけてね」
強力な攻撃を捌いて躱すのは、リゼミラさんやレオさん。オーディス団長との訓練で何度も経験した。
大きな武器を振り回す相手に対しての挙動についても学び、しっかりと訓練をしてきた。──大きな木剣を振り回すリゼミラさんを相手にするのは大変だった。
アンクバート対策は、オーディス団長との訓練が参考になった。団長は最近、片手剣と盾を使った修練をしていたが、俺の為にと大剣を使った訓練相手を努めてくれたのだ。
大剣を振り下ろしてからの横薙ぎなど、力任せの攻撃は、一撃一撃の合間に隙が生じるので、そこを逃すなと教えてくれる。
「接近すれば、かなり優位に闘えるだろう」
団長は一つ一つの動きを説明し、重心の動きや軸足の状態を見逃すなと言う。
それが相手の動きを予測するのに役立つからだ。
そうした熟練の戦士にしか分からないような事についても、包み隠さず教えてくれ、俺はかなりの攻撃予測の方法を熟知した。
そうした事を思い出しながら控え室でも心象訓練をしていると、三回戦に出場するよう事務員が伝えに来た。
「では、行ってきます」
「うん。見ているよ」
リトキスさんはのほほんとした感じで言う。
俺が勝つのをまったく疑っていないらしい。
……それは俺自身もそうだった。
アンクバートがいくら怪力で、大きな得物を自由自在に扱ったとしても、先達から教わった手練れの技を見せつけられた訓練をこえてくるとは、とても思えない。
それはあいつが見せる態度にも表れていた。
オーディス団長もそれについてこう言っていたのだ。
「あの団長はあまりに自惚れ過ぎているな。自分の力を過信しすぎだ」
実力以上の自信を持って相手を軽んじるのは、二流、三流のやる事だ。そんな風に言っていた。
──俺もその言葉に賛成だった。けれど、あのアンクバートが自分を鍛えに鍛えているのは身体を見れば分かる。
だからこそ、あいつにははっきりと示してやる必要があるんだ。
年長者の──先達の意見を退け、否定するだけの考えなど、ただの独り善がりに過ぎないって事を。
先達から学べる知識や技術を否定したあの男には、本当の闘いというものを教えてやる必要がある。
本当に強い戦士との戦いを知らなければ、自分の弱さも見えてこない。
思い上がりや、つまらない劣等感など、そんなものはなんの役にも立たない。
本当の事を知らず、無知なまま優越感を大事にするのは、自分を居心地のいい場所に押し込み、弱い自分から逃げる理由を与えるだけだ。
そうした自分の弱さと向き合うのが怖いから、自分よりも強く経験のある年長者を恐れる。
否定したがるのはその証拠。
力ある者を否定し、拒絶するのは、弱い自分を認めなくてはならなくなるからだ。
だからあいつには、はっきりと認めさせてやらなければならない。
お前は俺には勝てないんだっていう事を。
俺は闘う意志を固め、気合いを胸の内に秘めて、闘技場へと歩いて行く。




