武闘大会③
大勢の観客が見守る中での緊張と、カムイの想い。
旅団に誘ってくれたオーディスワイアに一番感謝しているのはカムイかもしれないですね。
開会式が終わると、大会参加者の簡単な紹介がされ、全員の名前と所属する旅団が観客にも知らされた。
そうしたものが終わると、試合まで控え室に戻らされる。
「カムイの一回戦はもう少し先だね。僕ら中堅冒険者の試合は、新米達の決勝戦後に始めるみたいだね」
リトキスさんはいつもと変わらない様子で、競技用の剣をくるくると回したり、伸ばした腕の前に剣を突き出したりして重さの確認などをしている。
「うん、大丈夫そうだ」
剣の扱いに違和感がないか確かめると、リトキスさんは椅子に腰掛けた。
俺も剣の握りや重さを確かめたが、いつも使っている剣と感覚的な誤差は感じない。
数分そうした事をしていると、事務員の女性がやって来て、俺の名を呼んだ。
「じゃ、行ってきます」
「うん。レオさんやリゼミラさんから学んだ事を忘れずに闘えば、大丈夫だから」
そう言って俺を送り出してくれる。
狭く薄暗い通路を通って、光の差す闘技場へと向かう。
外からはざわざわと大勢の人の声が聞こえる。
俺と対戦相手が闘技場の砂地に足を踏み入れると、歓声と共に試合の実況をする男の声が闘技場に響いて、俺と対戦相手の名前を紹介した。
「では彼らの闘いを見守りましょう!」
審判員が互いに武器を構えるよう指示し、俺はゆっくりと剣を両手で構える。
「はじめ!」
わぁあぁぁっ、という大きな歓声に押され、闘いが始まった。
──────気づけば、試合は終わっていた。
相手が大上段からの振り下ろしをしてきたところへ、横に避けながら相手の剣を上から叩きつけ、地面に剣先を食い込ませると、相手の首を斬りつける反撃で相手に「まいった」と言わせた。
……大歓声に萎縮しがちだったが、初戦は余裕だった。我ながら完璧に近い動きだ。
と言うよりもむしろ、ほとんど無意識に出来た動きだった。
何度も重ねた訓練の動きを初戦で発揮した結果、最初の反撃で勝利を得る事が出来た。
……同年代の男の冒険者が相手だった。──正直、相手がどういう男だったか、よく覚えていない。
試合の決着がついた後で握手を交わしたはずなのに。
──闘いが始まるまで緊張していた自分だったが、いざ闘いが始まったとなると、すぐに気持ちが切り替わった。
それは、この闘いを勝ってなんとしても優勝まで勝ち上がる。という強い気持ちがあったからだ。
手強い相手だろうとなんだろうと、全力で勝ちにいく。その姿勢だけは変わらない。──しかし、緊張した……
控え室に戻ると、リトキスさんは「おつかれ」と言うだけで、結果については尋ねる事すらしてこなかった。
「いやぁ……緊張しました」
「けれど、レオシェルドさんや、リゼミラさんと闘うよりは緊張しないでしょ? あの二人と対峙するより怖い相手なんて、なかなか居ないよ」
「そうですけど……。ほら、観客に囲まれての試合だと、なんか──頭が真っ白になっちゃいましたよ」
そう言うとリトキスさんは「う──ん」と、上を見上げる仕草をした。
「……そうかもね。けど冷静に考えてみようよ。こちらの命を奪いにくる強力な魔物に立ち向かうのと、命を落とす事のない試合。どちらが緊張するかな?」
「それは──命懸けの戦いですね」
そう答えると「だよね」と笑うリトキスさん。
「まあ、観客なんて忘れて、目の前に居る対戦者に集中しないとね。前に立っている相手が見えないなんて失礼な話だし」
ぐさりと痛いところを突かれた気がした。確かに俺は、周囲の歓声に圧倒されて、対戦相手の名前も覚えようとしなかった。
相手が誰かなんて、まるで大した意味がないとでも言わんばかりだ。──俺は自分のした事を恥じた。
今回の大会に出たのは、自分の実力を知る為でもあるが、それ以上に──自分と同世代の冒険者の技を直接見るいい機会だと考えよう。
俺はこの大会の後で、すぐにオーディス団長の元へ行き、パールラクーンで起きている戦争に加わるつもりだ。
仲間を守るのが冒険者の、旅団の意義だ。
俺はかつての意志も身体も弱い、子供じみた考えを持つ冒険者とは違う。
己の意志で戦って、己に恥じない働きをする事が出来る人間だ。
そうあるよう先達たちに鍛え上げられたのだから。
仲間の為に、フォロスハートの為に戦える冒険者であり戦士。自分もそうありたいと望んでいる。
なんの為に強くなるのか? 強さを求めるべきなのか?
その答えを、自分の周りに居る人達から教わった。
だから俺は迷わない。




