武闘大会②
ちなみにカムイが中心のお話で、リトキスについては⑧でちょっと触れるだけだったりします。
武闘大会はゲーシオンで行われる。
もともとこの都市の神は、大地と戦いを司る神様だと言われている。その所為だろう。立派な闘技場が建てられていた。
薄暗く狭い通路を歩いた先に広間があり、そこで大会への参加の最終確認と、対戦表を確認していると、聞き覚えのある声がした。
「へえ……おまえとは三回戦で当たるみたいだな」
それは「黎明の白刃旅団」の団長アンクバートだった。
「それまで負けるなよ」
厳つい体つきの男はそう残して広間から出て行く。
俺とリトキスさんは奴の背中を見送ると、互いの顔を見合って肩を竦めあった。
俺とリトキスさんには分かっているのだ。──この大会で最も注目すべき相手が誰なのかを。
対戦表でその名前を確認すると、リトキスさんと共に待合室に行き、結構な広さのある部屋で待っていた事務員らしき女性に促され、用意された刃引きの剣と、防御魔法の掛けられた腕輪を指示されるまま身に付けた。
「これらの武器や腕輪で致命傷は防げるはずですが、怪我は負います──ご注意を。
この後で大会の開会式が始まりますので、その時間になったらまた呼びに参ります」
事務員の人が出て行くと、俺とリトキスさんは用意された金属の剣を手にして、簡単な練習を始めた。
俺は長剣と短剣の二本を使って素振りを行う。
軽い運動の後、俺とリトキスさんは部屋の中央で訓練を始めた。
どちらからという事もなく、自然と訓練が始まり、金属と金属をぶつけ合う音が部屋の外にも響いて、慌てた事務員の人が部屋に飛び込んで来た。
「ちょっ……! そろそろ開会式ですので、休んでいてください」
彼女は冷静な口調で言ったが、かなり険しい表情をしており、怒鳴られるかと思ったほどだ。
「ここでは素振りだけにしておいた方が良さそうだね」
リトキスさんはそう言って口元に指を当てたが、騒音というよりも──たぶん、俺達の剣戟の音が凄まじかった所為で、彼女は慌てたのだろう。
まさか控え室で殺し合いが始まったと考えた訳ではないと思うけど。
開会式までに初めて手にした鉄の剣に慣れておくと、呼びに来た事務員の後に従って闘技場に向かって行く。
──そこには白い砂が撒かれた広い空間。
周囲は高い壁に囲まれ、壁の上にある客席から数百人の観客が歓声を上げている。
観客達の熱狂とは違って、闘技場に立っている戦士達からは──ぴりぴりとした気迫が感じられた。
彼らも旅団の仲間達の想いを背負ってここに立っているのだ。
それは俺も同じ。
いや──。俺は彼らよりも強い意思で、目的を持ってここに居るんだ。
それは、旅団で取り組んだ俺の訓練と冒険の日々。その時間。
それを支えてくれたのは、旅団の仲間達。
何より俺を鍛えてくれた団長やリトキスさん、リゼミラさん達。
俺は旅団の──俺を鍛え、育ててくれたあの人達に、見せつけたいのだ。
あなた方のお陰で、俺はここまで強くなれました、と。
この武闘大会に参加した理由は、自分の実力を知りたいのと。──大会で優勝して、俺を鍛えたのは無駄じゃなかったと、そう思ってもらいたいからだ。
闘技場を囲む円形の観客席。そこにある露台状になった場所から、初老の男が姿を見せた。
彼の前に棒状の何かが置かれ、そこに対して声を出すと、会場中に聞こえるくらいの大きな声がどこかからか響いてくる。
「諸君! 今日この日にゲーシオン武闘大会が開かれる事を喜ばしく思う。しかし、我々の──フォロスハートと交流のあるパールラクーンが、いま危機的な状態にある。
蛮族の犬亜人どもが、友である猫獣人や小獣人を襲い、侵略してきている! 我らは一致団結し、別の大地の同胞を救わねばならない! 彼らが土地を奪われれば、我らに齎される彼の地の恩恵が得られなくなり、互いにとって大切な仲間を失う事になろう」
初老の男は太い腕を高々と、やや演技過剰な感じで振り上げた。
「五賢者の一人このヴォージェスも、明日にはパールラクーンに向かい、戦いの指揮を執りながら、奴ら蛮族どもを打ち倒しにゆくつもりだ。
今回の武闘大会で戦う者の中にも、すぐにで。おパールラクーンへ向かおうという者も居るだろう。
フォロスハートの同胞諸君! 我々は仲間を守り、共に生きてゆくべきなのだ!
管理局は新たに『旅団統合支援課』を創設し、今後は今まで以上に冒険者にとっても、フォロスハートにとっても必要な、発展を支えていく活動をしていくと決定した。
冒険者はもとより、これからも市民諸君もこのフォロスハートの為に尽力し、支え合い、共に生きていこう!」
五賢者だという初老の男の言葉を受け、観客席から大きな歓声と拍手が起こった。
闘技場に居た俺達も手を打ち鳴らし、この大きなうねりの中に熱狂と、使命感をもってこの武闘大会に臨もうという決意を固めたのだった。




