武闘大会①
武闘大会編を毎日投稿する予定です。(全8話)日曜(今日の)昼過ぎにも投稿予定。
本編の八章の終盤から九章にかけてのお話です。
オーディス団長がパールラクーンに向かったその日。
俺達は訓練に励んだ。武闘大会で勝利する為に。
数日後には開催される武闘大会。そこで三位以内には入りたいものだ。
「カムイ」と、俺を呼ぶ声。
振り返るとそこにはリトキスさんが立っていた。その手には木剣がにぎられている。
「戦闘訓練をしよう」
リトキスさんの技量はレオシェルドさんに並ぶ強さだ。──特に防御からの反撃という点においては、リトキスさんの動きは参考になる。
攻撃の鋭さではレオシェルドさんの技量が秀でているが、反撃からの連続攻撃の鋭さ、速さはリトキスさんの方が上だと思う。
……実を言うと、リトキスさんに攻撃を受け流された後にくる連撃を、俺は今まで躱せた試しがない。それほど鋭い攻撃が、体勢を崩したところへ繰り出されるのだ。
あまりに容赦のない連撃。その剣捌きは縦横無尽で変幻自在。あらゆる体勢から放たれる軌道の読めない攻撃。
「お願いします」
俺は手に一本、腰にもう一本の木剣を持ってリトキスさんの前に立つ。
お互いに武闘大会に出場する戦士だ。
リトキスさんはオーディス団長の推挙で選出されている。──俺は今大会で自分の実力を計る為に、率先して手を挙げた。実力のある人との闘いを何度も経験し、強さを手に入れる為に。
まずは一本の剣を使った戦い方でリトキスさんと対峙する。
同じように長剣を両手で握り、構える相手の間合いに注意し、じりじりと接近する。──離れた場所から一気に間合いを詰めて来た。
リトキスさんやレオシェルドさんが使う歩法。
瞬迅と同じような速さで迫って来る。
そうした攻撃よりも、連続で繰り出される攻撃と、相手の攻撃に重ねるように狙った攻撃にさえ反撃してくる技。それがリトキスさんの手強さを増す。
いつ攻撃すれば反撃されに難いか。
どう動けば反撃し易いか。
それを考えながら戦う方法を学んでいく。
何度も何度も敗北を経験しながら。
俺はそうやって強さを手に入れた。最近それを実感する。──俺がウリスとヴィナーの三人だけで活動していたら、こんな強さは手に入れられなかった。それは間違いない。
オーディス団長に誘われ、旅団に参加する事になって変わったのは──俺の意識。
強くなるという目的には、俺よりも強い人達が居て、彼らに追いつきたいという気持ちが俺の中に起こった。目標となる先輩の存在が俺を強くしてくれた。
彼らのような強い冒険者になりたいと強く願い、訓練に積極的に取り組む気持ちが強くなったんだ。今の俺は昔と比べ格段にそうした気持ちが強くなり、「なれなかったらどうしよう」とか、「努力しても無駄になるかも」といった事を言い訳にしなくなった。
ただひたすらに戦いの技を身につけ、冒険で成果を上げる決意だけを持って訓練に臨む。
つまらない迷いを捨てたのだと、オーディス団長は言ってくれた。
「『なれたらいいな』じゃなく『なりたい』と強く想い続ける事、そこに妥協や迷いを生じさせない事。
冒険に出てる時に『勝てないかも』なんて思いながら戦っていたら、勝てるものも勝てないぞ。命懸けの戦いに余計なものは必要ない。それをお前はここ数ヶ月ではっきりと学んだはずだ。
今度の大会はただの腕試し。思い切りやってくればいいんだよ」
オーディス団長はそう言って俺を励ましてくれた。
レオシェルドさんやリトキスさん、リゼミラさん達も俺の訓練に付き合ってくれ、戦いに必要な技を惜しみなく見せてくれた。──こうまでされて、簡単に負けて帰ってくる訳にはいかない。
「もう一度、お願いします」
リトキスさんの前に立ち、何度でもあの鋭い攻撃を受け続ける。
目を慣らし、体で覚えるまで。
今日から大会の日まで毎日、何度だって厳しい訓練を続ける
やり残した事がないように。
武闘大会で最良の結果を残す。
その意気込みを胸に、大会の日まで訓練に明け暮れた。




