レーチェの旅団への想い
レーチェの気持ちは学校に行けなかった人が、合宿みたいな行事に憧れるみたいな心境だったのかなぁ。
執務室で作業をしていると、リーファが手伝いに来てくれました。彼女は紅茶の入った紅茶容器などを手に、労いの言葉を掛けてくれ、冒険で手に入れた素材やルキを帳簿に記載する作業を手伝ってくれる。
思えば彼女が侍女として雇われた頃に、私は冒険者になりたいという──漠然とした想いだけを抱いていましたわ。
彼女が格闘技者である事を知って、闘いの訓練を教わったりもしましたけれど。幼少の頃から冒険に出る為の訓練をし、旅団で下積みを積んできた若い人達には及ばないのではないかと、不安を抱いてもいました。
しかし、リトキス氏に冒険者としての基本的な心構えから、冒険での所作に至るまで──ありとあらゆる事を学びましたわ。
その頃から特に私は「旅団での仲間と共に活動する環境」に、憧れに似たものを抱き始めたのですわ。
旅団という集団の中で共に生活し、冒険に出て戦い、探索する──そうした仲間と共に暮らすのは、とても愉しそうだと考えていました。
けれどその為には、旅団員を囲う建物に──仲間を養うだけのお金と、冒険の手助けとなる、多くの人の力を借りなければならなかったのです。
幸い、良い巡り会わせというものがあって、私は思うよりも簡単に──旅団という物に参加する事が出来ましたわ。
それはきっと、リーファやリトキスさん、そしてオーディスワイアさんとの出会いが無ければ、きっともっと先の事になっていたでしょう。
いくらお金があっても、旅団に居る団員達を纏めるには人望が要りますわ。それを成し遂げるのはオーディス団長の、知識と経験が要りました。
錬金鍛冶師としての技術力も高く、かつては広くその名を知られた「金色狼の三勇士」の一人であったオーディスさんの──若手を育て、引っ張って行く力量があればこそ、この短期間で「黒き錬金鍛冶の旅団」は──急成長を果たせたのでしょう。
私が旅団を立ち上げていても、こうはならなかった──そう思いますわ。
時に厳しく、時に団員想いな面を覗かせる団長に──旅団員は皆、心を開いているようです。
帳簿に今までの収支の全容を書き記し、帳面を閉じる。
紅茶を飲みながら、リーファに旅団での生活で困った事は無いかと尋ねると、彼女は少し考えてから。
「そうですね……妹弟子のメイが、団長に酷い事をしていないか、それが気がかりです」
と答えたのだった。
そう言えば、先程から庭の方が騒がしいですわね……
たまに重い打撃音らしき物音が建物の中にも響いてきていますわ。
どうやらメイが団長を訓練相手にして、格闘技の鍛練をしているようです。私もあの少女と何度か手合わせをしましたけれど、格闘ではまったく歯が立ちません。
「団長……がんばって」
私はそう呟き紅茶を飲む。
窓からは団長の咳込む声が聞こえてくるのでした……




