ある日の下着騒動
コメディータッチな内容。シリアスなものを書いている途中の息抜きですね。
今回もオーディスワイア視点にしました。
朝食になり、皆が食堂に集まっていた。
俺の前にユナやメイ、横にはレーチェやリーファが座る事になった。いつもと少し違う並びだ。
……何やらメイがもぞもぞとしながら、隣に座るユナに声を掛ける。
「下着がないと、スースーするね」
「はっ?」ユナが素っ頓狂な声を上げた。
「下着、全部洗っちゃってて、きょう履く物が無かったの」
しんと静まり返るメイとユナの周辺。
世界が音を失ったかのようだ。
「な、な、な……」
でも大丈夫。メイはそう親友に応えていた。
「下着が無ければ、履かなければいいんだよ」
なるほど、それは逆説的な答えの導き出し方だな。その発想の転換には、深遠なる宇宙の神秘的な誕生を見る想いがした。
「ふっ、……その事に気づいてしまったか……」
俺は嘆息しつつ、少女の思いがけない発想に感慨の念を抱いた。少女の成長とは早いものだな。
マリーア○トワネットも言っていたではないか。「パンツが無ければ、履かなければいいじゃない」と……あれ? 違ったかな? まあいい──。
「なぁにが『その事に気づいてしまったか』ですか! いけません、いけませんわ! メイ。そんなのは、淑女として破廉恥ですわ!」
破廉恥……? と、ぽかんとするメイ。彼女にはその言葉の意味が分からなかったらしい。
「リーファ、彼女の下着を作ってくださる?」
侍女にそう声を掛けると、その侍女は「はい」と応えて立ち上がり、朝食が運ばれて来る前に食堂を出て行ってしまう。
「おいおい、下着くらいでそんな……」
俺は下心など無しにそう言ったのだが、彼女は俺を凄い目で睨んでくる。
「団長は黙っていてくださいな」
もの凄い「圧」だ……
彼女の冒険中に出会う魔物共は、こんな圧力を浴びて戦いに挑んでいるのかと思うと──彼らに同情する気持ちが湧いてくる。
さらに驚いた事に、食事が運ばれて来る頃には、リーファが下着を作って持って来たのだ。
「さあ、メイ。彼女から受け取った下着を履いて来なさ──ここで履いてはいけませんわ!」
おもむろに屈み込もうとする少女を慌てて止めに入るレーチェ。
メイは「わかった──」と言って食堂を出ると、扉の陰で下着を履いて戻って来る。
「本当は、自室に戻って履くべきなのですが……まあ、今回はいいでしょう」
レーチェは団員の品位についても厳しいのだ。「旅団の品位」などという書籍を出しそうなほどに。
「この下着、スースーする」
下着の履き心地に慣れないせいか、履いてない時と同じ事を口にする。
「最も繊細なレース生地を使った下着よ」
と、リーファが言う。
「まぁ今回は、かなり短い時間で作った即席の物だから、明日からはちゃんとした下着を履きなさい」
敏腕侍女であり、少女の姉弟子でもあるリーファの言葉を「はい」と素直に受け入れるメイ。
「けど、スースーする……」
少女は、やはりもぞもぞとしながら、朝食を落ち着かない様子で食べるのだった……




