手紙を受け取ったリゼミラとアディーディンク
黒き錬金鍛冶の旅団に参加するちょっと前のリゼミラ達の様子。
ディーディーが手紙を受け取っていた。あたしは子供達の面倒を見ていて、ちょっとした事で喧嘩を始めた二人を宥め、泣きわめく娘を抱き抱えて落ち着かせてやる。子供達は気が抜けない。ちょっと目を離すと、何をしでかすか分かったもんじゃない。
言葉もたどたどしい娘にとって、自分の中に溢れる感情は、言葉ではとても言い表せないのだろう。わぁわぁと泣くばかりで、こちらの話を聞こうともしない。こういう時は──話して聞かせるのではなく、抱きしめてやって安心させるのが一番だ。
子供には言葉で言うよりも、身体に触れ、そばに居てやるのが効果的だ。愛情を持って接してやれば、何も煩わしいと感じる事もない。
「誰からの手紙?」
娘のリッカが泣き疲れて静かになったところで、夫のアディーディンクに声を掛ける。
「うん、リトキスからの手紙だった。オーディスさんが団長を務める旅団に加入したんだって」
「えっ、あいつが旅団を? どういう風の吹き回しだろう? 人を纏めるなんて、あいつが嫌っていた事じゃないか」
ディーディーは、私の言葉に呆れた顔をする。
「何言ってるの。僕達だって、あの頃とは違うじゃないか。オーディスさんだって変わったんだよ、きっとね。錬金鍛冶師としても、最近めきめきと実力を付けているみたいだから、旅団員に武器や防具を作ってあげているんだろうね」
懐かしそうに言う夫を見て、あたしの中の冒険心が熱くなるのを感じた。
今でもあたしは冒険に出ている。
あの頃とはまた違った強さを手に入れている自負もあり、一人で冒険に出る事もあった。
「あいつが旅団を……よし! あたしもその旅団に入るよ!」
ディーディーは「えっ」と声を上げたが、あたしの顔を見ると肩を竦める。
「まあ、そう来るか……」と、何だか諦めた様な事を言う。
「何言ってるの、ディーディーも入るんだよ!」
「ぼっ、僕も⁉ いやぁ……管理局の仕事もあるしなぁ……」
ディーディーは渋っていた、冒険者に復帰する事に不安を感じている部分もあるのだろう。長い間、現役から離れていたから仕方がない。
「とにかくっ、一度あいつに子供達を見せに行こうと言ってたじゃない。オーディスは今、どこに居るの?」
改めて手紙に目を通しながら「中央都市ミスラン」だと答える。
さっそく明日にでも……と行きたいところだが、しばらくは用事がある。──数日後に予定を空けてミスランへ向かう事にした。
かつて共に冒険した旧友に子供を見せる……何だか変な気分だ。ろくに連絡をしなかったせいもあるけれど、少し気恥ずかしさを感じている。久し振りに会いたいという気持ちもあるのに。
「お、お菓子でも持って行った方がいいのかな?」
「『あたしを旅団に入れてください』って? そんな柄じゃぁないでしょ。むしろ『あたしと勝負して、あたしが勝ったら旅団に入れろ!』って言う類型でしょ」
そっか……そうよね。──いえ、そうだったわ。確かにそちらの方があたしらしい。
「うん、それでいこう!」
「えっ⁉ 冗談のつもりだったんだけれど……」
こうしてあたし達は、旧友に会いに行く予定を立てたのだった。呆気にとられる夫を放置して……
お菓子を~は、いわゆる「菓子折り」という奴ですかね。フォロスハートにそんな文化があるかは不明です(笑)




