猫行商人の買い付け
完結した本編もよろしくお願いします~
転移門のある広場の周辺には、何人かの行商人が敷物を敷いて──そこに座り込んでいるにゃ。
こうした光景は、正午過ぎから──夕暮れ前まで見られる事があるにゃ。
今日は私以外の行商人は、三人しか居にゃいにゃ。これは上手くすると──良い品物が仕入れられそうにゃ。
離れた場所に陣取っていた男が動いた。
その男の目的は「塩の山と泥の沼地」から戻って来た冒険者達から、買い取れる物品を交渉しようと言う訳にゃ。
一応、冒険先で入手した物資は、管理局に先に見せる義務があるにゃ。──その物資には目録があり、その中に記載されている物が、優先的に管理局に買い取られる事ににゃっているにゃ。
私の様にゃ行商人は、目録にある物以外を先に買い取る為に、ここで待機しているにゃ。
ちにゃみに今日の狙いは……「古びた城塞都市」から帰還して来る冒険者から、混沌の魔物から手に入れられる魔晶石や、魔力結晶を購入する予定にゃ。
これらは──一応、管理局の目録にも載っているけれど「準購買品」として扱われ、管理局の在庫が無くなりそうな場合にのみ、積極的に買い取られる物品なので、今日は強制的に管理局に買い取られる事は無い。
そして何より、私の一番の目的は──「混沌の魔物」や「死霊の騎士」が持っている事がある、武器や防具などを買い付ける事にあるにゃ。
強力な装備品の場合は、冒険者達が「売る気は無い」と言って、相手にもされないが。二級品、またはすでに似た様にゃ効果を持つ装備品を持っている場合は、、行商人に買い取ってもらおうと考える冒険者も居るにゃ。
管理局まで行ってから、大通りの外れにある武器屋や防具屋にまで運ぶのは、大変だからにゃ……
こうして、私は転移門から現れた五人組の冒険者に突撃したにゃ。──幸い、今回は同業者は来ていなかった。
「はいはい、どうもですにゃ。行商人にご用はありませんかにゃ?」
すると、冒険者達は互いの顔を見合わせる。
「……何が入り用だ?」
私は決して、欲しい物を口にしない。
「それは、あなた方が重くて大変だにゃ──と考えている物で結構ですにゃ」
そう、こちらが「要求」しては、相手に「それが欲しいのか」と悟られ、足下を見られてしまうにゃ。
そのパーティの二人の女冒険者達がひそひそと話し、「女神の力が」どうだとか話している。
「以前、パールラクーンの女神の力を宿す指輪を持っている奴を見た。その指輪には生命力を回復する力が宿っていたらしいが、──『毒無効化』や『麻痺無効化』の装飾品は無いのか?」
混沌の魔物との戦いで、麻痺毒を放たれて大苦戦を強いられたらしい。仲間同士で何やら愚痴の言い合いが始まった。
「う──ん? 女神の力の宿った指輪や腕輪は、神殿の神官に知り合いが居れば、手に入れる事が出来るかもしれない、貴重な品ですからにゃぁ。無効化するほどの力を持った品になると、なかなか……」
「あるのか無いのか、どっちなんだ」
ゴソゴソと、肩に背負った小さめの鞄を漁る私に、男の冒険者が詰め寄る。
「う──ん、毒耐性強化ならありましたにゃ。これでも、かなりの効果がある品ですにゃ」
そこまで言って、品物は見せ無い。まずは、あなた方の獲得した物を見せてくれと求める。
「魔力結晶や混沌の爪、死霊の騎士の剣に鎧、盾に籠手など。その他防具が数点……そんなところだ」
と、別の男が言った。
彼らの荷袋や背嚢から取り出したのは、数本の剣と、死霊の騎士や兵士から奪った防具類が、バラバラに入れられている。
まあまあの品が揃っているみたいにゃ。
私は彼らと交渉し、その武器と防具のほとんどと、二つの「毒耐性強化の指輪」と交換した。
ちなみに「神殿都市アーカム」の神官長と知り合いの私は、それなりに女神の力の込められた品を、融通して手に入れる事が出来るにゃ。
「ただ」では無いがにゃ……
冒険者らも、耐性強化の装飾品を受け取って、満足して武器や防具を置いて行ったにゃ。
商売は、自分の利益だけを考えていたら成り立たないにゃ。
相手も満足して、次の取り引きも、この相手としよう──そう思わせなくては、商売は続かない。
細く、長く。
それが肝心にゃ。




