ウリスの弓の修練
ウリスは寡黙なスナイパーみたいな娘。年齢の割にグラマーな設定だったはず……地味で目立たん!
冒険に出ない日、私は、市外訓練場に行って弓の練習をする事が多い。
ただ単に、的を設置して矢を射込むだけの練習じゃない(それなら宿舎の庭で出来る)。移動しながら、素早くしゃがんで矢を放ったり、場所を移動しながら連続で、三つの的を射るなど、実戦で応用する為の練習。
狩人は、勢子が追い立ててきた獲物を待ち構えて射るだけの者も居れば、積極的に森や草原を探索し、獲物を狩り立てる者も居る。ーー私はどちらかというと後者の狩人だ。
時には、一匹の兎を追い駆けて足を止め、素早く射抜く事を行ってきたがーー冒険で立ち向かう相手は、兎の様な小さな的は少なく、大きな体の生き物が多い。
正確な射撃も重要だが、場所を変えながらも、威力のある矢を射るーーといった事も、また重要だと思い知った。
前衛が敵の前進を受け止めている間に、後衛の狩人が急所に向かって正確な射撃を撃つ。または、相手の攻撃や前進を止める、出鼻を挫く攻撃。
こうした連携を行う事も求められる。
狩人ーー弓使いは、そうした「裏方」の仕事でもある。
機先を制する行動をし、敵を誘い出し、各個撃破を狙うなど、戦術の多くの役割を担うが、ーーやはり弓の仕事は、支援的な意味合いが強い。
それは、私の性格には合っていたのだろう。
前に出てーー自分が、自分がと、目立った活躍をしようと思った事など一度も無い(胸を張って言う事では無いだろうけど)。
弓の技術と、魔法を使用する時の集中の仕方が似ていると、よく言われる。だからなのかは分からないが、私だけでなくーー多くの狩人も、いくつかの魔法を使えるのが一般的だ。
けれど、弓矢を番えながら魔法を使う為に集中するのはーー凄く難しい。
どうしてかは自分でも正確な事は分からない。弓を狙っている感覚と、魔法を使う為に集中する部分が、互いに邪魔し合って集中が乱れるみたいなーーそんな感覚。
魔法と弓を同時に扱えないか、何度か挑戦してみたけれどーー駄目だった。
私は、それについて、団長に相談した事もある。
*****
「魔法と弓の合わせ技?」
団長は肩を竦める。
「いや、そういった技を使う弓使いを見た事は無いな。弓で攻撃して、追撃する形で魔法を使う弓使いなら居たが」
それでも凄い事だ。私は弓を撃った後、魔法への集中を行わないと、魔法を使用する事も出来なかった。
「ただ、昔ーー俺が旅団に入る前には、射った矢を爆発させたり、命中した相手を風の力で切り刻んだりした弓使いが居たらしい。管理局にも記録が残っているが、ーーその人物以来、そうした技術を扱える弓使いは現れてないみたいだな」
何故なんですか、と私は即座に尋ねる。
「それは……その弓使いが、人と接するのが苦手だったからだとかーーつまり、その技術を継承させる相手が現れる前に、お亡くなりになったそうだ」
なんでも、その弓使いも、冒険者としての晩年と言っていい年に、そうした技術を使えるようになったらしい。
そして不覚にも、冒険に出たままーー最後を迎えてしまったのだと、団長は言う。
「継承の重要性を理解していて欲しかったな。せめて、魔法と弓の両立を図る示唆(ヒント)を残してくれれば……」
本当に、その冒険者の感覚を知れれば、弓と魔法の両立。そうした技術を私も使える様になっていたかもしれないのにーーこのとき私は、ほんの少し、名も知らぬ先人を、ちょっと恨めしく思ったりもしたーー




