リーファ、買い出しに行く
本編300話が完結しました。
上部の『方舟大地フォロスハートの物語』から本編を読んで頂けると嬉しいです。
地下食料庫の塩漬け牛肉の入った樽を調べてみたらーー案の定、残り僅かになっていた。
うちの旅団には若手が多く、食べる量も、それなりに多い。
そのうえ、牛肉や豚肉が好きな団員ばかりなのだ。ーーうちの「お嬢様」も、その一人なのだが。
「買い出しに行ってきます」
と、そのお嬢様に掛け合うと、旅団費からお金を持って行くようにと言って、費用を渡してくれた。
大通りから繋がる道幅の広い「商店街」がある。そこの市場は、管理局から回されてくる食品を扱っている店が多い。
中には冒険者達が余分に取って来た肉や、野菜なども取り扱っている店もあるが、主に管理局から回ってくる物が大半だ。
中央都市ミスラン以外で集められた品物も、各都市に分配されるので、どの都市でもそれなりに、食料の安定供給が計られているーーはずだった。
「牛肉ですか。ーー無いですね。ここのところ、シャルファーからも、ゲーシオンからも牛肉が届かないんですよ。ミスランの転移門でも牛は取れますが、それのほとんどは管理局に回りますから、余剰分は零なんでしょうね」
何という事……! 管理局から配給された以上の牛肉が手に入らないなんて……
そういえば、カムイやウリスも「深緑の大地」で牛の姿を見なかったと言っていた。豹や虎に狩り尽くされてしまったのだろうか。
ゲーシオンとシャルファーの、二つの都市にある転移門が、牛や豚の多く取れる場所として知られているが、このままでは、新たな転移門の先に、牛や豚などの生き物が多い大地がある事を、祈るしか無いのかもしれないーー
そんな想いを抱いて宿舎に戻り、レーチェに(旅団内では呼び捨てにしろと命じられている)費用を返すと、何があったのかと尋ねてきたので、ありのままを説明した。
「まぁ、そうでしたか。……なら、うちの牧場の方に聞いてみましょう。乳の出なくなった牛であれば、食肉に出されますから。……当分は、鶏肉や腸詰めなどで我慢するよう、団員達にも言っておきましょう」
そうだった。彼女の実家には放牧場もあるのだ。食肉用の牛や豚は多くは無いが、それでも、フォロスハートの食料自給率の多くは、彼女の実家……ウィンデリア家の畜産技術に頼るところが大きい。
クラレンスの街を中心にした、ウィンデリア領主の庇護を受ける民はーー皆、勤勉で、努力家である。領主が彼らの努力を認め、相応の報酬を約束し、技術開発を行う為に、錬金術などの力を惜しみなく借りているのもある。
既存の畜産技術や生産能力に満足せず、より良い、効率的な産業の開発を目指す領主と、領民の取り組みによって、穀物を効率良く小麦や米にする機械などを造り、田畑の土壌を豊饒に保つ為の研究なども行われていた。
家畜の餌を作り出し、畑に肥料として撒く家畜の糞も、熱処理や発酵をするなど、手を加えているのだ。
レーチェの兄も研究熱心な領主の一人だが、あまり実家には帰って来ず、滅多に姿を見なかった。
邸宅に住む侍女達は、彼女の兄が帰って来るとーー皆ウキウキとした様子でいたが、私はあんな優男は好みじゃない。
レーチェも兄に会う度に、少しは体を鍛えたらどうなのかと、何度も言い聞かせていたものだ。彼女の、冒険者になりたいという想いの数十分の一でも、兄の方に遺伝していれば良かったのだが。




