レーチェの趣味と老夫婦
久々の外伝を投稿。
本編もよろしく~
中央都市ミスランには宝石を扱うお店は数軒ありますが、原石のまま売っているお店は少ないですわ。
宝石ならやはり、都市ゲーシオンが一番品数が豊富ですわね。あの街での買い物は、ワクワク致しますわーーでも、あの街へ行く時間も無いので、今日はミスランのお店を見て回る事にしました。
加工された宝石は、もちろん美しいですが。切り出されたままの原石もまた、違った美しさがあると思いますの。
私は、そう言った原石の蒐集もしているのでしてよ。オーディスワイアさんなら、錬金鍛冶に使った方が良いと言い出しそうですけれど。
小さい商店の並ぶ通りに、宝石の原石を他よりも多めに扱っている店があります。この店自体も小さな物ですけれど。
ドアを開け、店の中に入るとーードアの上に付いた小さな鈴が「からん、ころん」と音を立てて、客が来た事を知らせています。
「いらっしゃい」
この店の主人ーー今日はお爺様の方でしたかーーが出迎えてくれました。以前は、お婆様が出迎えてくれたのですが。
宝石を見る前にその事を尋ねますと、今日はお医者様の方に行っているとか。
「どこか具合が悪いのですか?」
私は心配して尋ねたのですが、お爺様は「はっはっはっ」と笑い出したのです。
「どこか悪く無い所を探す方が難しいくらいさ。この歳になると、あちこち傷んでもくる……着古した衣服の様な物。最後には、ぼろ雑巾にでも生まれ変わるぐらいしか、使い道が無くなるのさ」
お爺様は、そんな黒い冗談を言って、また笑う。
「まあ……お大事にと、お伝え下さい」
「大丈夫。あいつは儂より長生きするよ」
お爺様の言葉は簡潔なものでした。
この様な夫婦間の関係はーーきっと、長い間一緒に生きてきたからこその考え方や、感じ方なのでしょうね。
独特な、お二人にしか分からない機微があるのでしょう。
私は木箱に収められた宝石の原石を見て、はっと気がつきました。
お薬代が嵩んだりするのではないでしょうか?
これは私が、ご協力して差し上げても良いのではないでしょうか……?
そんな考えは傲慢かもしれませんが。
少々考えてから私は、木箱に収められた原石の内、半分近くを購入する事に致しましたわ。
気に入った物は私が持って帰るとして、残りはオーディスワイアさんに差し上げる事にしましょう。
きっと錬成で使うでしょうから。
宿舎への帰り道。重い鞄を手にしながら道を歩く。
空はいつもと変わらない。
大昔の書物や、遺跡から見つかった文献には、天候について書かれた物がある。
フォロスハートの大地は、元々あった大きな大地の断片だというのは、本当なのでしょう。
多くの人々は、そんな事は事実では無い、と考えているようですが。
古い文献に書かれた世界について学ぶと、宝石の原石の様な小さな鉱物までもが、より大きな世界の構造を教えてくれる。そんな気がしますわ。
石や岩の中から採れる宝石は、大地の血や精気だと考える人も居たとか……興味深いですね。
私も何度か採掘をする探索に行きましたが、いまいちな結果に終わりました。きっと相性がよろしく無いのね。
宝石の原石が採れなくても、問題ありませんわ。
旅団での冒険が上手く行けば、私の趣味の問題など、小さな事です。
明日も冒険に出てーーそして、さらに強くなりますわ。
私がフォロスハートを支える冒険者の一人として活躍する、その日を目指して。




