カーリアの魔法剣
冒険に出る前にオーディス団長に「魔法の剣」を渡された。何でも特殊な作り方をした、私用の武器らしい。使用の注意点をいくつか説明すると、背中を押し出して「行ってこい」と声を掛けてくれた。
実戦の中で使い方を学べと言っていたが、言われた通り剣に火の魔法を使う様に意識すると、剣から朱色に輝く炎の刃が吹き出した。
「なっ、なんなんですのカーリア。それは」レーチェさんもリーファさんも敵を前にして、こちらを見ている。
低い「ぶぅぅぅン」という音がして、剣の先にまで伸びた炎の刃が煌々と光を放つ。
「えいっ」
私は二人の後方から前に出つつ、剣を振り下ろして炎の刃を撃ち出した。怯んでいた悪鬼猿に当たると、上半身を切り裂かれた悪鬼猿が炎に包まれて、その場に倒れ込んだ。
続けてレーチェさんが切り込むと、一体が倒されて、リーファさんが二体を一気に拳と蹴りで倒されてしまった。
「オーディスーー団長がくれた剣? 魔法の剣と言うのですか、まったくあの人は……いつもいつも驚かせてくれますわね」
「炎を纏う斬撃を撃てるのですか……強力な武器になりますね」
二人共この魔法の剣に驚いた様子だ。けれど私も驚いている、比較的簡単に魔法を扱える感じだ。急に敵に襲われても焦らなければ、すぐに魔法の刃を展開できる。
*****
「今度は風の刃ですっ」
私は剣に風の刃を纏わせて敵を狙った。熊に似た獣の腹部に当たった風の刃が、深々と腹を切り裂く。剣士と言うよりは魔法使いに近い感じの戦い方だけれど、私でも強力な攻撃が撃てると考えるとやる気が出てくる。
大きな岩山の間を通過中に不意打ちを受けた、二体の狼に襲い掛かられてしまう。
リーファさんは身を翻して攻撃を躱したが、鈍臭い私は跳び掛かられて、横向きに倒されてしまった。
近くで狼が助けに入ろうとしたレーチェさんを威嚇してから、私の脚に食らいつこうとする。
「このぉおっ!」倒れた状態のまま剣に炎の刃を纏わせて剣を振り払うと、後方からレーチェさんの小さな悲鳴が聞こえた。
「ひっ、火が……! けっ、消して下さいな! リーファ!」
レーチェさんの髪の先が燃え出していたーーも、もしかして私のせい……? 二人が大きな声で「動かないで!」とかやり合っていると、狼は炎の刃を恐れたのか、逃げ出していったのだ。
*****
「ご、ごめんなさい……」
戦闘後、私はレーチェさんに謝った。後ろから攻撃された為に互いの位置を把握しきれなかった私の失敗だ。
「ま、まあなんにせよ、毛先だけで済んで良かったですわ。魔法の剣が強力なのは分かりましたけど、扱いには充分注意しなくてはなりませんわね」
レーチェさんは綺麗な金髪を焦がされて怒っているかと思ったが、表面上は冷静なーーいつもと変わらない感じで接してくれた。
でも確かに危ない、魔法剣を使う時は味方が離れているか確認してからでないと、迂闊に振り回すのは危険だ。私は強力な力の扱いには、充分な注意を必要とする事を学んだ。
そういえば『魔法剣士エリステラ』も、最初に力を手に入れた時には周囲から危険視されたり、迫害を受けたりして、次第に人から距離を置くようになったらしい。
「危険な力を使いこなして魔物共を薙ぎ払い、私は強い魔法剣士になるのだぜ!」
彼女の決意を見習って、私も強い魔法剣士を目指さなければ。そして世の為、人の為に戦えるような、そんな志を持っていきたい。
その為にも、自分の振るった剣で仲間を傷つける様な事を起こしてはいけない。私はまだまだ未熟な魔法剣士、エリステラの様にはいかない。私は一段一段階段を上がる様に地道に強くなって行くんだ。
いつか仲間から頼られる存在になれると信じて。




